愛する我が子へ

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 気付けば季節は一周半過ぎており、空を見上げれば高く薄曇が広がる秋模様。  愛子は一歳半になっており、よく笑う無邪気な幼児に成長していた。  そして、以前より心配されていたことを指摘された。  一歳半検診だった。  母子寮でも、まだ歩かず単語が出てこないことから少しゆっくりだと聞いていたが、まだ一歳半だからと、そこまで深刻に考えていなかった。  しかし周りを見れば、愛と同じ月齢の子供が一人で歩き回り、積み木を上手に組み立て、絵を指差して物の名前を答えている。  それは、異次元のことが目の前に起きたかのような衝撃で、佳奈は初めて我が子の発達の遅れを認識することになった。  その後、公的な訓練を受けるようになった愛子は歩けるようになったが、その分言葉の遅れが顕著となり、訓練を重ねても意味のある単語は出てこなかった。  そんな冬の終わり、愛子は二歳の誕生日を迎えた。  一年前は「一歳になった」と成長を喜んでいた佳奈だったが、現在は「もう二歳になってしまった」と考えてしまう。  月齢は増えていくのに出来ることは増えていかず、実年齢との差はどんどん開いていく。  その実情に焦り、そして苛立ちを感じるようになった。  よって。 「なんで、そんなことも分からないの」 「みんなは出来てるのに、どうしてあなたは出来ないの?」  佳奈は娘を責め立てることが増え、無理に言葉を教え込むようになった。  それは絶対にしてはいけない。子供を傷付ける。  保健師に、そう教わっていたにも関わらず。  見かねた母子寮の職員にも、子供の成長を見守る大切さを諭されるが、佳奈はそれを受け入れられない。  訓練を強要された娘はその都度泣き、疲れて寝てしまうまでそれは毎日繰り返された。  そんな日々を過ごす中で、愛子に異変が訪れる。  表情が乏しく笑わなくなり、食事量が減り、見るからに活気がなくなっていた。  それでも佳奈は訓練を止めず、母子寮の職員に愛子を休ませてあげるように諭されるが、こうしている間に周りとの差が開いてしまうと一向に止めない。  見かねた相談員は、愛子が三歳になる頃にその提案をしてきた。
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