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「佳奈さんが、愛子ちゃんに同じ苦労をして欲しくない気持ちは分かっているし、どっちも悪くない。だけど。いや、だからこそ別々に暮らすべきなの。養親さんは愛子ちゃんのことを理解した上で育てると言ってくれているから、託しましょう」
「……はい」
佳奈は娘を別の家庭に託すと決めた。
娘を見る度に過去の自分と重ね、出来ないことへの焦りと苛立ちが、自分を支配していたのだとようやく気付けた。
手続きをする中で、相談員から「里子」と「特別養子縁組」の違いの説明を受ける。
大きな違いは「里子は離れて暮らしていても親子関係は継続」となり、いずれ佳奈の元に帰ってくる可能性がある。
しかし、「特別養子縁組の場合、子供は養親の戸籍に入ることになり佳奈と愛子の親子関係は終了」となる。
その選択によって、その後の関係性も未来も全然違うものだった。
「養親さんは、佳奈さんの意志を尊重すると言ってくれているの。私としては里子制度を……」
「特別養子縁組でお願いします」
佳奈はその言葉を遮り、自らの意志を告げる。
「え? あ、でもね。そうすると佳奈さんは愛子ちゃんの母親ではなくなるの」
相談員は、何度もその説明を行う。
いつも佳奈の意志を尊重してくれるが、初めてその考えを否定していた。
二人にはいずれ一緒に暮らして欲しい。
その願いを、思わず口走ってしまうほどに。
しかし、自分の考えを押し付けてはならないと思ったのか、佳奈の話を冷静に聞き始めた。
「私も愛子みたいに認められたかった……。理解されたかった……。みんなにできることが私にはできなくて……。お父さんとお母さんにいつもバカだと言われて。叩かれて……。勉強もぜんぜん分からなくて……。みんなにも笑われて……」
誰にも言えなかった胸の内をポツリポツリと話し出す。
佳奈も上手く話すことも勉強も出来なかったが、何を言われていたかは理解しており、表情には出さなかったがその心は深く傷付いていた。
それは両親が、ありのままの娘を受け入れなかったから。
何度も教師に、佳奈に合った支援を受けさせるべきだと諭されていたのに……。
「でも愛子は理解されて、これから大きくなる。そうやって育つあの子とまた会えた時、私は嫌なことを考えてしまうかもしれない。ひどいことを言ってしまうかもしれない。……私は自分の子供に、『あんたなんか産まなければ良かった』と言う人間になりたくない……。だから、もう会いません」
佳奈のその言葉に、相談員は黙り込んでしまう。
「大丈夫」。そんな気休めな言葉、言えるはずもない。
二人を離した方が良いと判断されたのは、虐待の兆候が見え始めていたからだった。
佳奈は一線を越えないように踏みとどまっていたが、親子が再会した時に越えてしまうかもしれない。
だから、この二人が幸せに暮らす為には……。
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