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「遠山博士、あなたは確かに、僕を立派に育ててくれたけれど……。でも、あなたの存在こそが僕の不幸の始まり。だから、あなたを消すしかなかったんだ! この世界から完全に!」
そう口に出しても、やはり胸は痛まなかった。
改めて、これまでの経緯を振り返ってみると……。
タイムマシンの開発に関わりながら、ずっと太郎助手は考えてきた。自分の人生を変えられるとしたら、どこからやり直したいか、と。
まず頭に浮かんだのは、遠山博士に引き取られるという出来事だ。あそこを改変して、孤児院に預けられたならば、その後どうなっていただろうか。
それより少し前の時点で、母親の病死を阻止できるのであれば、そちらの方が望ましいが……。病気で死ぬ人間を死なないようにするなんて、簡単にできる改変とは思えなかった。
そもそも人間の生死を変えられるのであれば、母親より前に、父親のことも助けたい。母一人子一人でなく、親子三人で暮らせたら、母親の健康状態も違っていたかもしれない。
そこまで考えた時点で、父親の死に遠山博士が責任を感じていた、という話を思い出す。ならば、遠山博士がいなかったら、父親は死なずに済んだのだろうか。それでも亡くなるとしても、もしも遠山博士がいなければ、最終的に彼の世話になることはないわけで……。
遠山博士の排除。つまり、初めから彼が生まれてこなければいいのだ。
そうした考えに基づき、遠山博士が誕生した日にやってきた太郎助手は、無事『排除』に成功したのだった。
「これで元の時代へ戻れば、父さんが生きている歴史になるはず。母さんも生きているかもしれない」
時間移動をしながら、改めて自分に言い聞かせる。
最悪の場合でも、厄介な遠山博士のいない、天涯孤独の身になるだけだ。もう自分は大人なのだから、一人でも生きていけるだろう。どんな仕事にも就けるし、このタイムマシンだってある。
いや、もう用事が済んだ以上はタイムマシンも必要ない。そもそも二人で作ったタイムマシンだから、片方の遠山博士が消えれば、どうなるかわからない。だが、それでも構わないのだ。開発過程で学んだ様々な知識と技術は、別の分野にも活かせるはずだ。
薔薇色の未来を思い描く太郎助手は、心がスーッと軽くなって……。
タイムマシンが、出発地点に帰ってきた。
遠山博士が生後まもなく亡くなった世界では、トオヤマ時間研究所は作られない。もはや彼の生家もなくなり、その場所は単なる空き地になっていた。小さな公園のような、がらんとした土地だ。
土の地面の上に、突然出現した格好のタイムマシン。だがその中に、太郎助手の姿はなかった。そして彼の後を追うようにして、タイムマシンそのものも、まるで霞みたいに消えてしまう。
太郎助手は知らなかったのだ。
遠山博士こそが、彼の血縁上の父親だということを。
母親が不貞を働き、その結果として生まれた子供が彼だということを。
だから遠山博士がいなければ、太郎助手も生まれてこなくなり……。
こうして二人が消えた世界では、当然のように、タイムマシンの誕生も幻となってしまうのだった。
(「だから僕はあなたを消した」完)
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