だから僕はあなたを消した

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     都心から電車に揺られて一時間、さらに駅を降りて徒歩十数分。駅前から続く商店街が終わり、緑が多くなってきた辺りに、寂れた町工場(まちこうば)が建っていた。  入り口に掲げられているのは、木板に「トオヤマ時間研究所」と直書きされただけの簡素な看板。建物の中では、灰色のコンクリートが剥き出しの壁に囲まれて、今まさに世紀の大発明が完成しようとしていた。 「見たまえ、太郎くん。ここまで来れば残りは十パーセント、いや五パーセント程度だろう。偉大なる装置は、もうすぐ完成する!」  仰々しく腕を広げて(のたま)うのは、裾長の白衣を着た初老の男。年相応の白髪頭とは対照的に、肌の艶は若々しい。この研究所の所長、遠山博士だった。 「わかっています、所長。僕もずっと、制作に携わってきましたからね」  淡々と返したのは、遠山博士と同じ白衣の青年。もじゃもじゃ頭の太郎助手だ。  遠山博士の方には顔も向けず、外部モニターの画面を凝視したまま、カタカタとキーボードを打ち続けている。装置の制御プログラムを調整するのに忙しく、心の中では「その『残り五パーセント』は、ほとんど僕の仕事じゃないか。作業の邪魔だから、無駄に話しかけてくるな!」と吐き捨てていた。  太郎助手の内心を知ってか知らずか、遠山博士は満足そうな笑みを浮かべながら、完成間近の装置を改めて仰ぎ見る。  彼が言うところの『偉大なる装置』は、直径数メートルくらいの丸っこい物体だった。正確には完全な球状ではなく、金属板からなる多面体だが、重要なのは外見よりも中身だろう。遠山博士と太郎助手が二人で作ってきた装置は、時間を移動するための機械、いわゆるタイムマシンなのだから。    
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