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「本当にね、お別れしたくなったらこのボタンを押して。そうしたら私は穂高くんの頭から綺麗に消えるから」
彼女がそう言って笑ったのは今から三年前の話。
小野寺奈緒は僕の同級生で、僕たちはいわゆる青い春を持て余した少年少女だった。法律に守られた範囲で悠々自適に生きた高校生活。退屈ではなかったのはきっと隣に奈緒が居たからだろう。
珍しい話ではないけれど、僕と奈緒も進学と同時に自然消滅した。
大学生になったらバイトを始めたり、サークル活動に精を出したりして、段々と奈緒に連絡する頻度も落ちていった。「別れよう」と言葉に出したことはなかったけれど、彼女はもしかすると何か察したのかもしれない。彼女からの連絡も以前ほどは来なくなったから。
奈緒の居ない夏を迎えて、僕は新しい彼女が出来た。
相手は同じサークルの先輩で、僕は年上の彼女に置いていかれないように必死だった。だけど、そんな背伸びした恋が長く続くはずもなく、その年の冬、僕はまた一人になった。
それからはバイト先の仲間や友達の紹介なんかで適当な彼女を作っては別れを繰り返し、大学生活もあと数ヶ月という四年生の冬、僕はまた一人だった。学生なんてそんなもんだと思っていたし、べつに追い掛けたいほどの相手も居なかった。いや、これはちょっと強がりかもしれない。
一人暮らしをしていた1LDKの孤城で寂しく年越しを迎えるのもなんだかなという気分だったので、母親に呼ばれるがままに帰省した。
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