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「うん?」
「自信ないし……」
何の自信だなどと問えば、きっとイヴォンはまた睨んでくるのだろう。相変わらず目を合わせもしないイヴォンを僅かな間見下ろし、ヴァレリーは寝台に寝転がった。
「ヴァル?」
「隣に来い」
軽く寝台を叩けば、イヴォンはおずおずと隣に躰を横たえる。
「何をそんなに怯えてるんだ」
「だからっ、自信ないんだってば!」
くるりと向いたイヴォンの背中に、ヴァレリーの笑い声は跳ね返された。蹲るように丸まって向けられた背中を両腕で包み込む。華奢な躰が、ぴくりと跳ねた。
「恥ずかしいんだよ……バカ」
弱々しい罵り声に苦笑が漏れる。逡巡したヴァレリーは、イヴォンの肩へと手をかけた。されるがまま上向くイヴォンの目元を片手で覆う。
「っヴァ……ぅん、っ!?」
合わせられた唇に、逃げる舌先を軽く吸いあげる。口腔を舐るたびに溢れる声は、やがて甘やかなそれへと音を変えた。
「ぁ、は……っん、ヴァ、ル……」
胸元を掴む拳が震えていた。目元を覆う掌に温かな雫を感じて、ヴァレリーはイヴォンの顔から手を退けた。
「泣くなよ」
イヴォンの額にかかる髪を掻き上げ、眦に口付ける。塩気を含んだ雫を舌で舐めとれば、濡れた睫毛がしぱしぱと瞬いた。
「嫌だったらそう言え。そんな事でお前を追い出したりしない」
「ヴァルは……嫌じゃない? 本当に俺でいいの……?」
「俺が嫌な相手にキスなどすると思うのか?」
「それは……しない、よな?」
問い返してくるイヴォンが憎たらしい。
「して欲しいのなら他を当たるか」
言いながら躰を起こすヴァレリーを、イヴォンは慌てて引き留めた。
腕にしがみつく頭を見下ろしながら、どこか安心する自分に気付く。どうしてこうも気持ちを掻き回されなければならないのかと、不満を抱きはしてもヴァレリーは答えを知っていた。
――ヴァルってさ、実は俺のこと大好きだよね。
そう告げた時のイヴォンの顔は、どんなだったろうか。見そびれたことを今になって悔いるヴァレリーは、俯く頭を軽く撫でた。
「顔を上げろ、イヴ」
「ん……」
「お前の言う通り、俺は案外お前が好きらしい」
「っ……うん」
「だからこれからお前を抱くぞ」
「ぅ、ゃ、宣言しなくてもさ……」
しどろもどろになりながらも逃げようとはしないイヴォンを引き寄せる。
「……ヴァル、近い」
「嫌なのか」
「嫌っていうか、……恥ずかしい」
この期に及んで近いなどと言われれば、ヴァレリーも躊躇いを覚えよう。
「お前、本当に抱かれる気あるのか?」
「だっ、だからいちいち言うなってばっ」
「お前が近いだの恥ずかしいだの言うからだろう」
気を遣ってやっているのだと、些か不機嫌気味のヴァレリーである。
「仕方ないだろっ、あんたみたいに慣れてねーんだから!」
慣れていないと言われても、事あるごとにこの調子ではさすがにやりにくい。さてどうしたものかと思案したヴァレリーは、イヴォンの真っ赤に染まった頬を両手で挟み込んだ。
「俺に抱かれたいって言え。そしたら、お前が何を言おうと最後まで抱いてやる」
「はあっ!?」
「嫌なら構わんぞ。無理に抱く気はないからな」
すぐ目の前のイヴォンの顔が益々朱くなる。
「ずりぃよ……」
「何がだ」
「何で俺にばっか言わせんの。ヴァルは? ヴァルは、その……俺のこと……」
「抱きたくもない相手に俺がこんな事を聞いてやると思うか?」
視線を彷徨わせるイヴォンへと口付けて、ヴァレリーは耳元に囁いた。
「お前を抱きたいんだよ、イヴ」
「ッ……」
「ほら、言えよ」
普段聞いたこともないようなヴァレリーの声は、脳に直接響くようだった。威圧とは違うそれに、何故か息苦しさを覚える。
「っ……だ、ぃて……ほし……」
消え入りそうなほど小さな声が、恥ずかしそうに告げる。その瞬間、イヴォンの躰はあっさりと寝台の上に縫い付けられた。ヴァレリーの大きな手がすぐさまシャツをたくし上げる。
「ちょっ……と、ヴァル……!」
「何だ」
「そんないきなり!?」
「当たり前だろう。どれだけ俺が我慢してやったと思ってる」
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