狂犬は甘やかに鳴くか。

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「良い子だイヴ。そのまま上手に出来るな?」 「ん、ぅっ」  手を離しても動きを止めないイヴォンの額へと、音を立てて口づける。軽く頤を持ちあげれば、涙に濡れた深い緑の瞳がヴァレリーを映し出した。 「ヴァ…ル、キス……して?」 「舌を出せ」 「ぁ……、ぇ」  開かれた唇から覗いた舌先をべろりと舐めあげる。反射的に引っ込みそうになるそれを逃すまいとするかのように、深く合わせた口腔をヴァレリーは貪った。 「ん、ぅっ、……ァッ、ヴァル……――ッ」  口づけの最中、喘ぐように名を呼ぶイヴォンの躰がふるりと震えたかと思えば、下肢に熱を感じてヴァレリーはふっと笑った。イヴォンの手をすり抜けて僅かに腹筋を汚す体液を掬いとり、長い指を舐めあげる。 「ずいぶん早いな」 「だ……って、気持ちぃ……」 「まあ、ちょうどいい」  下肢を濡らす熱を指先に纏わせてヴァレリーは僅かに躰を倒した。 「っ、ヴァル……?」 「大人しくしていろ」  耳元に囁いたヴァレリーの指が、イヴォンの後孔へと伸びる。双丘を割り開かれる感覚に、イヴォンはきつく目蓋を閉じた。 「ヴァ……ル、待って……」 「駄目だ」 「やっ、そこ……ダメ……」 「ほらイヴ、手を止めるなよ。俺はまだ出してない」  軽く腰を揺すりあげればイヴォンの両手は再び下肢へと伸ばされた。小さな掌の中で、ぐちゅりと卑猥な水音が響く。 「ぁ、俺……また…先に出しちゃう、っかも……」  恥ずかしそうに告げるイヴォンの雄芯は、吐き出して間もないというのに未だ硬さを失ってはいなかった。 「いくらでも吐き出せよ。好きなだけ感じろ」 「んっ……ヴァル、っも、気持ちよく……なって…?」  首筋に当たるイヴォンの吐息が熱い。不意に込み上げてくる欲に、ヴァレリーは身を任せることにした。 「イヴ、俺を気持ち良くしたいなら口を使え」 「く、ち……?」 「嫌か?」 「……っ、する」  そろりと膝を降りたイヴォンが、足の合い間に蹲ろうとするのを制止する。 「尻はこっちだ」 「え……?」  口で説明するよりも早いとばかりに、ヴァレリーはイヴォンの片足を掴んで引き寄せた。ずりずりと寝台の上を滑るイヴォンの頭を持ち上げて腿へと乗せてやる。すぐ目の前に突き付けられる反り勃つ雄芯から、イヴォンは視線を逸らせた。 「ちょ、ヴァル……っ」 「舐めろ」 「ぅ……はい…」  これ以上ないほどイヴォンの顔は朱かった。おずおずと差し出された舌先が屹立を辿る。 「は、ぁ、……ぇぅ」 「上手だイヴ。そのまま利口にしていろ」 「は……っぃ、……うあッ!?」  素直な返事は、だが後孔へと侵入した長い指に呻きに変わった。狭い襞を割り開く異物に小さな躰が強張る。 「待っ、ヴァ…、抜ぃ、てっ…」 「誰が口を離していいと言った?」  大きな手が軽々とイヴォンの頭を押し下げた。下腹へと顔を埋めたまま、息苦しさに小さな手がヴァレリーの腕を掴む。 「ご、め……なさ、……す、る。……ちゃんと、でき…るっ」  言いながら、全身にざわざわと痺れが走るのをイヴォンは自覚した。苦しいのに、何故か気持ち良い。虐められたいのかと、そう問われた時に感じた奇妙な感覚が形になって、全身を這い回る。  自覚した途端、イヴォンは欲を弾けさせた。 「ッ! ――……アッ、ぁ、ヴァ…ル、ど…しょ、俺……変だ…」  いつの間にか、頭を押さえていた手は退けられていた。深い緑の瞳がヴァレリーを見上げる。  そこには、満足そうに嗤うヴァレリーの顔があった。 「気持ち良かったか?」 「俺……おかしぃ…」 「何がだ? 指もしっかり飲み込めて偉いじゃないか」  途端に後孔をぐちりとくじられて、イヴォンはヴァレリーの膝の上で仰け反った。 「うあッ、アッ、やぁ――……ッ」  さざ波のように繰り返す快感に、全身を攫われる。ヴァレリーの指が動くたびに、震えるほど気持ちが良くて堪らなかった。    ◇   ◇   ◇ 「イヴ、来い」  グラスを片手に告げるヴァレリーの声に、イヴォンはぴくりと肩を震わせた。  ニースで過ごしたあの日から四日。イヴォンは夜ごとヴァレリーに呼び寄せられては一方的に快楽を与えられていた。その間に、ヴァレリーが欲を吐き出したのはたったの一度だけだ。
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