《RENG SIDE part5 = the newspaper》

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《RENG SIDE part5 = the newspaper》

 新聞を拾った、本当は学びたいのかもしれない。  捨てた人間にとってはゴミ同然のこの紙切れも、俺には宝となる。  人々に踏み潰され、薄汚れた新聞紙が自分と重なった。  俺も金を持つ奴らに踏みつけられ、蹴られ殴られここまできた。  この国の全人口のうち少なくとも一%にあたる、約千三百万人に戸籍がないと、この新聞には書かれている。  一%が全体に対し極少ないことは、俺にも理解できる。  では千三百万という数字は少ないのか、多いのか。それが俺には解らない。  国政調査で政策違反や罰金減免、分割払いを求めた結果、多数の無戸籍者が判明したという。  罰金を支払えず申告のできなかった貧困層を含めると、更に無戸籍者が増えると見られる。 「李蓮! 陳傑がサツにパクられた」  入ってきたのは張勇。  俺たち孤児に存分な学はなく、国からの援助だってろくに受けられていないのが実情だ。  だから様々な形で金を集めている。  俺は俗にいうサーカス団みたいな場所に属し、休日は小遣い稼ぎに道端で大道芸。  張勇だって昼間は日系工場で働いて、夜は寝る間も惜しみ肉体労働だ。 「あいつ、取り柄なかったからな」  煤でくすんだ窓の外を見詰め、俺は答えた。晴れか曇りか判らない。  戸籍がないと無償の義務教育も受けられず、医療保険加入や自動車免許取得、婚姻も認められない。  だが他人と比べるつもりもない。  この世に生を授けた両親の顔を知らなければ、この世に人間を生み出した神の顔すら知らないのだ。  今を生きるだけで精一杯。
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