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《RENG SIDE part8 = domestic animals》
耳が聞こえ難い状況を、言葉で説明するのは難しい。
何度も聞き返すのは気が引けるし、そんなに重要でもなさそうだから笑ってごまかしたところ、ヘラヘラすんなと筆談される始末。
最初から書いてくれ、そう願うが難しいだろう。
書いている間に殴られてしまう。
伝わらない苛々は、こちら側にもある。
だから俺は、誰とも関わらないことにした。
昨夜見た夢の中で俺は、耳の聞こえない俺へ何の抵抗もなく笑顔で筆談してくれる女と出会う。
そう、丘の上の彼女だ。
時系列がバラバラで繋がらない部分も多いが、彼女の家には金がない。
そのためいつもボロボロ、継ぎ接ぎだらけの服を着ている。
服を冷やかす生徒もいて、俺はそれらの苛めとも取れる差別を止めさせたいが、耳も聞こえず勇気もない。
俺は耳が聞こえないため見下されているわけだが、彼女には何の落ち度もない。
ただ貧乏という、本人には何の罪もない理由だけで殴る・蹴るの暴行を受け、髪を掴まれ引きずり回され、時に唾を吐きかけられる。
まるで家畜の扱いだ、教師も彼女の訴えには耳を貸さない。
俺の家はある程度の金持ちだったから、教師が中立に入っていただけだ。
その態度もまた苛めの対象となりうることを、残念ながら教師は気づいていなかった。
そこに彼女はいないように振る舞い、気づかなかったと言わんばかりの態度で見て見ないフリをする教師。
あんな大人にはなりたくない。
あんな大人に指導されて、真面な大人が育つはずがない。
学級の奴らは共通の迫害すべき対象を仕立て上げることで仲間意識を高め、安心したり心の平安を得ていたのだろう。
だから誰もが彼女には、救いの手を差し伸ばさなかった。
しかし彼女は苛めにも屈せず学べることを誇りに思い、毎日欠かさず学校へきた。
「辛くないのか」
隣りに座り、ノートに書き込み彼女に見せる。
「ママもパパも私の学費を稼ぐために、身を粉にして働いてくれているの。
だから私、両親のためにも負けられない」
貧乏を受け入れ、それでも笑顔でいる彼女。これは誰だ?
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