雪うさぎに化ける

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「ごめんよ……。しゃべったうさぎなんて見たことなかったからさ」  うさぎは腰に手をあてたまま、ふふんと鼻を高くする。 「甘く見てもらっちゃ困るな。俺にとっちゃ人の言葉しゃべるなんてお茶の子さいさいよ!」  お茶の子さいさいってなんだろう? と思いつつももしかしたら友達になってくれるかもとお願いをしてみる。 「ねぇ、僕と一緒に遊んでくれない? みんな外遊びはしてくんないんだ」 「ああ、今の子供はゲームが好きらしいな。俺らにとっちゃありがたいけどな。母さんが言ってたわ。人間の子供に捕まるとくちゃくちゃに構われるって。まあいいだろう。これも縁ってやつだからな。で、何すりゃいい?」 「本当に! 一緒に雪だるま作って欲しいんだ!」 「よしきた! そこに転がってる雪玉は雪だるま作る途中のやつなのな。任せな。頭は俺が作る」 「えーー!! 頭のほうが小さいじゃん!」 「俺はお前より体も小さいんだから当たり前だろ? 言い出しっぺはお前だし、言い出しっぺがキツいほうやるもんだぜ」  ふーんと頷いてみせたけど、なんかこうモヤモヤする。そういうものなのかな? 喋り方あとかうさぎのほうが大人な感じするのに。  ケンカするのも大人気ないと思って僕はもう一個雪玉を作ってころころ転がす。体のほうの雪玉だ。 「そう言えばうさぎさんはなんて名前なの?」 「おいおい。人に名前をたずねるとかはまず自分からだろ? 俺のことはうさぎでいいよ。うさぎだしな」  ケラケラ笑ううさぎさん。面白いことを言ったわけでもないのに。 「僕は聡太。聡太って呼んでよ」 「聡太かぁ。僕は人間だから人間って呼んでよって期待したのにな」  うさぎさんは、またケラケラ笑う。だから面白くないって。 「ほらほら。急がないと日が暮れちまうよ。俺も急がないとエサ探しに行けないからな」  このうさぎさんは、おじさんなんだろうか。言うことほとんどお父さんみたいな笑えない冗談ばかり言っている。それとも、うさぎ界隈だとこれが常識なんだろうか?  うさぎさんのつまらない冗談を聞き流しつつ、ころころと雪玉を転がす。 「はい。俺はおしまい!」  案の定、うさぎさんが先に終わる。頭は完成。 「早いだろう?」 「早いだろうって頭のほうが小さいし、そっちは僕が途中まで作ったやつじゃん!」 「かぁ! 小さいこと気にするなよ! ほらほら手伝ってやるからさ!」  うさぎさんと一緒に体のほうの雪玉をころころ転がす。笑えない冗談ばかり言うけど、そんなに悪い時間じゃない。真冬でも誰かと話しながら遊ぶのはやっぱり楽しい。勢いつけすぎて顔面から雪原に転んだときは、つい笑っちゃった。うさぎさん、僕に全然合わせてくれないんだもん。 「あはは! ちゃんと合わせてよ!」 「悪い悪い。小さいからって戦力外通告されたらたまんないじゃん? 張り切っちゃったよ!」  うさぎさんもケラケラ笑う。なんやかんやで雪だるまはできて、僕が作りたかった結界もできた。 「できちゃった……」  これができたら帰ろうと思っていたけど、せっかくの遊び相手の離れるのは寂しい。日も傾いてきてる。お日様がぽちゃんって山の陰に隠れたら暗くて帰り道も分からなくなる。 「おいおいどうした? 悲しそうな顔をしてさ? できたら帰らなきゃならないだろ? お母さん、心配するぞ?」 「そうだね……。ねぇ明日も会える?」 「なんだ寂しいのか? そんなの分かんないさ。俺は今日たまたまここを通っただけだからな」  ここで別れたらこれきりかも知れない。うさぎさんはケラケラ笑っているけど、僕の心はもやんと黒いカーテンがかかったみたい。 「ねぇうさぎさん、家に来ない? お母さんが動物苦手だから中には入れられないけど、僕、うさぎさんとお別れしたくない」  うさぎさんは、腰を手に当てて鼻をつーんと空に向ける。 「仕方がないなぁ。寂しがり屋の聡太のために特別にすごいものを見せてやる!」  うさぎさんは、ぴょんと飛び跳ねてくるんとまわる。ぽわんとうさぎさんは雪うさぎに化けた。 「ほら。これなら持って帰れるだろう? 今日だけ特別だぞ?」 「うさぎが化けて雪うさぎって何かのジョーク?」 「ジョークなわけあるか! 俺はこれしか化けられないんだよ! まだまだ子供だからな!」  うさぎさんは、大人のうさぎさんだと思っていたら子供だったらしい。でも、これなら持って帰れる。
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