4人が本棚に入れています
本棚に追加
雪うさぎを抱えて歩き出す。
「でも、うさぎさんって化けられるんだね? 狸や狐なら分かるんだけど」
「うさぎが化けないって誰が決めたんだよ? 山ん中の仲間は結構化けるぞ? ただ単に人のいる前じゃやんないだけさ。バレたら面倒くさいだろ?」
そういうものなのかと簡単には思えないけど、それを言ったらうさぎさんは怒っちゃうかもだし。ふーんと鼻を鳴らして林の雪の上をザッザッと歩く。雪うさぎを持っているせいか来るときよりぬかるむ。何度か転びそうになりながら、やっと家までたどり着く。
「あら。可愛い雪うさぎ」
お母さんは庭で雪かきをしていて林から出た僕に声をかけてきた。お母さん、がんばってたんだろうな。ほっぺたがまっかっかになってるし。
「可愛いでしょう?」
雪うさぎに化けたうさぎさんは、しゃべらない。バレないようにしているんだ。お母さんにバレたら一晩一緒に過ごすこともできない。
「ねぇお母さん、中に入れていい?」
「いいけど、きっと溶けちゃうからお盆の上に乗せるんだよ。それを守れたらいいよ」
「はーーい」
僕は雪うさぎを抱えて家の中に入る。言われたようにお盆の上に乗せてから僕の部屋にこもる。電気ヒーターをつけて、スキーウェアを脱いだところでうさぎさんはやっとしゃべりだす。
「美人なお母さんだったな。あと、聡太の部屋あったかいなぁ。人ってやつは贅沢だな」
「仕方ないじゃん。人間は寒い中で生きてけないんだもん。うさぎさんはスゴイよね。服も着ずに山の中で暮らしてるんだから」
「そりゃああったかい毛に包まれているからな! 頭しか毛のない人間には負けるわけないじゃんな!」
調子のいいうさぎさん。
「ところで聡太。このまま雪うさぎでいなきゃなんないか?」
「雪うさぎでいてよ。お母さんにバレたらうさぎさん、追い出されちゃう」
「敵わないなぁ。とって食うわけでもないのに、なんで嫌われるんだろうなぁ」
「僕も熊は怖いなぁ。うさぎさんはおしゃべりしてくれるから怖くないけど、そうじゃなかったら噛まれるって思うかも?」
「まぁなんかされたら噛むかもな。うさぎが人に敵うわけないけどな」
うさぎさんは、さっきと同じくケラケラ笑う。こうやって一晩過ごせたら明日も一緒に遊べる。お母さんにだけはバレないようにしないと。
最初のコメントを投稿しよう!