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動けもしないから窓の外のお月様も見えやしない。ただ、ゆらゆらと部屋の中に差し込む光でお月様に雲がかかったのが分かった。
どうしよう……。うさぎさんはなんにも言わない。眠かったはずなのに眠気も覚めた。うさぎさんはクークーと寝息を立てている。
ごめんなさい。うさぎさん、ごめんなさい。僕が悪かった。うさぎさんだってお母さんに会いたいんだ。ごめんなさい。
僕のベッドがもぞもぞと動いた。
「はぁよく寝た。聡太、反省したか?」
うさぎさんはベッドを下りてまた僕を見下ろす。
「泣いているのか? 俺だって母さんに会えなくなったら泣くぞ?」
ごめんなさいごめんなさい。一生懸命、心で謝る。
「ま、しゃあない」
うさぎさんは、また前足をぱんと叩く。僕の姿はもとに戻った。
「うわぁぁん。うさぎさん、ごめんなさい!」
「しーしー!! バレちゃ駄目なんだろ!? そんな大声で泣くな!」
声を押し殺して僕はうんと頷く。
「うさぎさん、ごめんなさい。うさぎさんも帰りたいよね。お母さんのとこに。僕、もうお母さんとお話できないと思ったらスゴく怖かった……」
「だろ? 帰ってもいいかい?」
「うん……。でも僕、また、うさぎさんと遊びたい」
「いいさ。明日も明後日もこの辺うろうろしてやっから雪がとけるまでは遊んでやるさ。だから泣くなよ」
うさぎさんの前足が僕のほっぺたに触れる。
「今日から友達だ。じゃな」
うさぎさんはにかりと笑ってから窓を開けてぴょんと出ていった。何回か振り返って僕に前足を振って。
やっぱりお月様はほわほわと冷たい光を放っていたけど、悲しくはなかった。うさぎさんがまた遊んでくれるって約束してくれたから。
朝が来てお日様がひょんと顔を出してから僕はお母さんに遊んでくると告げてから、また林の中の雪をザッザッとかき分けて雪原に出る。
うさぎさんは僕が作った雪だるまの結界の真ん中で昼寝をしていた。
「うさぎさん、お母さんに会えた?」
「もちろん。母さんの近くにしか俺はいないからな。なんたってまだ子供だからな!」
うさぎさんは、またよく分からない冗談を言ってケラケラ笑う。
「じゃあ思い出作るか聡太!」
「何それ?」
「母さんが言ってたんだ。俺らは思い出作ってるんだってさ。そうそう。今日から雪うさぎは禁止な。俺は遊んだら母さんのもとに帰りたい」
「いいよ。僕ももう雪うさぎになりたくないもん」
「じゃあはしゃぐか」
雪がとけるまで。僕らの思い出作り、もう少し。
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