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「その時には、この会話も忘れてるだろ」
「デスよね〜」
ツッコミ待ちだろうショータの期待に応えると、彼はケラケラと軽く笑った。
天使に付かれた人間は、それが見えないだけでなく、その存在ごと忘れてしまうらしい。だからたぶん最近のイッサは、自分がユリアと別れた理由を覚えていなかっただろう。彼女にもらった時計を「縁起が悪い」と言ったことも、悪気があったわけではない。
「イッサ、幽霊になって今このへんにいたりしてね」
「ミドリやめろよ、こえーよ〜」
「御霊前って言うじゃん? 死期が迫ると天使が付いて、死ねば霊になって、四十九日を過ぎたら仏になるとかさ……人間って、一体なんなんだろうね」
達観したような表情で、ミドリカワが静かに言う。その目が自分の背後をちらちら見るようになった時、きっとそこには天使がいるのだろう。が、それに自分が気づくことは、一生ないのだ。イッサがそうだったように。
ニノの脳裏に、イッサの笑顔が浮かぶ。ダメなところもあった。ひどいこともした。けど、悪いやつじゃなかったのにな。死は平等なんて言うけれど、その順番は不平等だ。
「これからもよろしく」
卒業アルバムにそう書いた友人は、もうこの世にいない。ニノは寂しいようなうすら寒いような気持ちを胸に、鬼籍の人になった友人を思い出していた。
【了】
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