失恋の儀式

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「バッサリいって下さい。」 鏡越しに目が合う人に、茜は強い決意を込めてお願いした。 「茜ちゃん、本当に切るの?」 「はい。」 「ん〜。咲夜(さくや)は知ってるの?」 「咲夜はもう関係ありません。私は失恋したので、彼は関係ないんです」 杉浦 茜は長く胸まである豊かな黒髪を一房掴み見つめた。 小さな時から髪が綺麗だと褒めてくれた人はもう他の人のものだ。 彼が褒めてくれるから頑張って手入れして、 暑い夏の日も切りたいのを我慢したし本当はパーマをかけたりしたかったけど悲しい顔をするからやらなかった。 「茜の髪は本当に綺麗だね。」 そう言ってよく髪を撫でてくれた彼の手はもう自分に向けられる事はない。 「お願いします。バッサリ切って下さい」 いつもの美容室で彼とも馴染みがある美容師さんに予約もなく無理やり押しかけて今まさに断髪式ばりに決意を込めて切ってくれと頼み込んでいる。 「う〜ん。とりあえずカタログ持ってくるね。どんな髪型にするか決めてもらいたいし」と言うと田神という美容師は席を立ち裏方へと消えていった。 杉浦さんだよね? そう声かけられて振り向くとすごく綺麗な顔をした女の子が自分に話しかけていた。 彼女は確か学校一可愛いと噂の先輩ではないだろうか。高校2年である茜と一つしか違わないはずなのに、この色気はなんだろうか。 やたらいい香りがするし目元と口元がウルッとしていて瑞々しい。 そんな人が私に何用だろうか。と思っていると 「杉浦さんにお願いあって、西条君と仲良いいよね?」と聞かれた。 はい。仲良いいというよりも 西条咲夜とは付き合ってますが? と答えるより早く先輩は携帯を茜に見せてきた。 咲夜と先輩とのLIN◯での会話がツラツラと並べられていて、そこには普段決して茜には言わないようなラブラブな熱いメッセージが続いていた。 さらに角度的には上半身裸のようにも見える手を繋いでいる写真が目に入ってきた。 男性の手首には咲夜がいつもはめているブレスが着けられていてよく分からないがきっと彼の手なんだろう。 なんで。 茜には指一本触れないのに。 「西条君、あっ、咲夜がね困ってたから。隣の家の子が付き纏ってるんだよねって。 杉浦さんの事かな?って思って。彼も面と向かって言えないみたいだから分かってあげて」 そうニッコリ微笑んで先輩は去って行った。 確かに最近、あまり会えなかった。 咲夜からの「ごめん」という言葉ばかりの自分とのLIN◯画面に、茜はそういう事だったのか。と妙に納得したのだ。 つまり知らぬ間に失恋していたのだ。 胸の奥がキリキリ痛んで目の前がボヤけて上手く歩けない。 だが、このまま引きずるのはいけない。 咲夜にまとわりつくのは辞めにしないと。 そう決意し失恋といえばを携帯で検索したら髪を切るとあったので、行きつけの美容室のドアを叩いたというわけだ。
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