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レモン哀歌(智恵子抄) 高村光太郎
あなたはそんなにもレモンを待っていた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりとかんだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑う
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
こういう命のせとぎわに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたような深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置こう
教科書で習った。有名な詩である。高村光太郎。彫刻家である。彫刻家ではあるが、僕は彼の彫刻を見たことがない。見たかもしれないが、彼の彫刻だと認識していない。
しかし、この智恵子抄は学校で習うし、いくつか教科書で習ったものも、そのあとで個人的に知ったものもある。
彼は今でいうところのフェミニストである。彼の生きた時代ではとても先進的な考え方だった。智恵子に対する愛情だけでなく、その観察力、表現力がとても心に響く。
レモン哀歌はまさしく絵画のような詩である。白、レモン、歯、トパアズ、青い目、山巓、桜の花。
僕の脳の中にダイレクトに入ってくる。その場に立って智恵子の命のせとぎわに立ち会っているような感覚におそわれる。
一番好きなところは「トパアズ色の香気がたつ」だ。美しい表現だと、昔俺の日記に書いたことがある。
あれからもたくさんの文章を書いた。これからも書くつもりだ。精進します。
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