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雲ひとつない青空の下,継ぎ接ぎだらけの真っ黒なアスファルトの上をひっきりなしに右から左へ左から右へと大小さまざまな車がスピードを落とすことなく走り抜けていった。
すぐ横の歩道を行き交う人々は皆気怠そうで,無言のまま決められた目的地へと黙々と歩いた。
道路に沿うようにして立ち並ぶマンションはどれも同じような外観で,個性のない建物には同じような窓が並んだ。
そのなかでも一際個性のない建物の屋上に制服姿の瓶子柚香が細長い整った指先をそっと手摺に添えるようにして優しく掴まり空を見上げていた。
風に乗って遠くから聞こえる子どもたちの笑い声が心地よく,少し離れたところにある小学校に通う子どもたちの歌声が微かに聞こえた。
「可愛い歌声……」
柔らかい歌声を乗せた心地よい風が頬を撫でると艶のある真っ直ぐな黒髪がサラサラとなびき,髪の毛で隠された漆黒の瞳の奥底で幼い子どもたちの泣き叫ぶ姿が映し出された。
「ああ……お腹が空いたな……」
緩やかな風とともにマンションの中から湧き出す甘いニオイが柚香の周りを優しく包み込んだ。
「そろそろ食べないと限界かな……」
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