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空を仰ぎながら大きなため息をつくと,柚香は震える唇を噛み締めた。
「お腹空いたけど,ご飯食べるのめんどいんだよね……なんでご飯食べるのにこんなに体力使うんだろ……」
大きなため息を再びつくと,手すりに触れた指を離した。
「やだなぁ……学校,行きたくないなぁ……」
いまの不定期にしか食事を摂らない生活のままでは高校卒業まで耐えられる気がしなかった。
中学生のころはイジメとは無縁の生活を送っていたし,小学生のころから知っているクラスの友達たちとは仲がよく,平和な毎日だった。
それが高校に進学し,違う中学校から集まったクラスメイトたちはやけに陰湿で,常に上下関係を気にしていた。
「ご飯食べなきゃいけないけど,食べたら……しばらくは学校に行きたくないな……」
黒い瞳に映り込む青空のなかに突然真っ白な一筋の雲が現れた。
雲は風に流されて細長く形を変え,光の届かない柚香の瞳の奥底で蠢く子どもたちの姿を掻き消すように右から左へと移動していった。
「学校……やだなぁ……。またイジメられちゃう……上手にご飯食べられないから……いつも汚れちゃうから……」
遠くで鳴るクラクションが耳の奥で小さく響き渡ると,まるで柚香のお腹が反応するかのように小さく鳴った。
「部屋に戻ったら,もっとお腹空くんだろうなぁ……面倒くさいなぁ……でも,どうせ食べるなら柔らかいお肉が食べたいな……」
濃厚な甘いニオイが屋上のドアから溢れ出し,柚香の足元に纏わりついた。
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