第四話 君の隣にいるとき

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「みんな死んだな……」 「みんな死んだね……」  映画館を黙ってあとにし、寝室のダブルベッドに横たわった一人と一体がそう零すと窓の外の街灯が同意するかのようにチカチカと光り出す。 「しかも主人公まあまあ早めに死んだよな……」 「うん……さすがにまだだろうなと思ってたらもういきなりだったね」 「バズーカが頭の後ろにあってさ」 「そのままドカンと……至近距離で打つ意味ってあったのかな? せっかくのバズーカなのに」 「あ~、まあ確かに」 「有機物には有機物なりの考えがあるんだろうね。アンドロイドには難しいよ。面白いね」「広いな括りかたが……」  さすがにスケールが大きすぎると一介の有機物として抗議したくなって上半身を起こす。「さすがにちょっと雑だったかな」とギルが横たわったまま頭をわずかに動かしてこちらをじっと見上げた。 「無機物同士でも、別にわかり合えるわけではないからね。知的生命体はみな孤独だよ。僕たちきっと、それぞれに銀河があるんだ。あらゆる光がその中で生まれて死んで、そのうち銀河ごと消滅する。誰の銀河も美しくて、僕たちは望遠鏡を買ってみたりロケットを飛ばしてみたりするけど……でも結局なにもわかりはしないんだ。自分の銀河のことすらなにも」  ベッドの上でブーツを履いたままの足を抱えて、孤独で美しい空をひとつ飛び続けるロケットをじっと思い浮かべる。 「俺もきっとなにもわかってないんだろうけどさ、でも……」  家を出る前に磨いたばかりの真っ黒のブーツには外から入り込む無数の街灯の光が映り込んで、足をかすかに動かすたびに無数の宇宙が生まれるようだった。 「ギルの銀河は綺麗だよ。今までで一番。俺は不当なナンバーツーの評価に抗ってるから、一番には厳しいんだ」 「光栄だね。でも、僕の中ではやっぱり君の銀河が一番かな」 君の隣にいると、とギルが伸ばした腕が自分の頬を包む。お互いの銀河ごと近づける気がする。 「近づいたら――」  もう一度ベッドに横になって鼻先がくっつくほど顔を寄せた。 「どうなるんだろうな」  皮膚の感覚はもうだいぶ鈍ってしまったらしくて、といつか話してくれたギルがくすぐったそうに笑って「さあ」と天井を見上げる。 「爆発するんじゃないかな」 「爆発……?!」 「なんとなく危険そうな感じがする。罪深いね、僕たちは。もうすぐ銀河爆発の主犯になるんだから」 「まあ、地球人は元々罪深いようにできてるんだ。今さらたいしたことじゃない」  言い終わった瞬間、街のどこかから爆発音が聞こえて思わず二人で声を出して笑う。ギルの銀河に近づけたら、爆発する一秒前だけでもひとつになれるだろうか。 <第四話おわり>
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