第一話 君とひとり

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第一話 君とひとり

 頭上を行き交うガラス張りの車両から見える星々の煌めきがやけに目に染みて、目頭を押さえて大きく息を吐く。踏み抜かないようにと大家から吸盤を鼻先に吸いつけられてきつく注意された階段をそろそろと上って、緑色のペンキで住人の名前が殴り書きしてある部屋の前にたどり着いた。ドアのチャイムを鳴らそうか迷ったが、結局鞄から鍵を取り出すと自分で開けた。 「おかえり。お疲れだね」  ホログラムの新聞から視線を上げて、ダイニングテーブルの前に姿勢よく腰かけているルームメイトがそう言って微笑む。 「ちょっとな。んん、羽目外し過ぎた。なんかいいニュースあった?」  予想通り涸れ切っている喉を押さえて顔をしかめると、新聞に向かって顎をしゃくる。 「特になにも。この街は相変わらずだよ。君も読む?」 「あとで。接続そのままにしといてくれよ」  仰々しい襟をした紫色のコートから始めて皺だらけのシャツやパンツを次々と床に脱ぎ捨てると、ルームメイトが立ち上がって衣服を拾い始める。「シャツ以外はクリーニングでいいのかな?」と、コートの襟についていた青色の粘液を指先でぬぐっていつ見ても冷たそうなその唇に弧を描いた。 「あー、そこ残ってた? こりゃもう一回シャワー浴びなきゃダメだな」  首の後ろに手をやってぬめつきを確認すると「食事はもうとった?」と彼が問う。 「まだ。昨日出勤してからほとんどなんにも」 「なら用意しておくよ。といっても、袋を開けるだけだけどね。大家さんから昨日多機能栄養バーを大量に頂いたんだ。通販で買ったとかで、おすそ分けだそうだよ」 「どうせ大量に注文して失敗したから押し付けてきただけだろ。まあいいや、なんでも」 「それでいい?」 「いーい。あー、あと着替え持ってきてほしい。ほら、なんかツルツルしてるやつ」 「黒の上下?」 「それ。よろしく」 「いいよ。バスルームで眠ってしまわないようにね」 「どうだろうな」  バスルームの戸を後ろ手で閉めて、濃い隈と中途半端に残ったアイラインが映る鏡と目が合うと再び大きく息を吐いた。
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