第四話 君の隣にいるとき

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第四話 君の隣にいるとき

「君って本当に綺麗なんだね」  施設内の緑地を流れる小さな川にルームメイトの姿が映ったと思ったら、ギルはそんなことを口にする。一体どういう文脈だと思いながら「どーも」と本から目線を上げずに答えた。「驚いたよ。探す間もなく輝いているから」と言いながらギルが隣に腰かける。 「嬉しいけど、店のやつに気づかれたらミラーボール代わりに天井にくくりつけられそうだな。今日は照明が壊れたって、さっき同僚から連絡あってさ……」  ホント今日はみなさんひどすぎます、と珍しく不満げに通話口で話すプリンスの声に紛れてまた新たな破壊音が聞こえていたのを思い出し、思わず顔を両手で覆う。 「まー、ドクターもなんとか捕まえたみたいだし今日はとりあえずどうにかなるだろうけど……あ、悪い仕事の話ばっかして。リハビリお疲れ」 「君もね。リハビリ嫌いのアンドロイドをここまでつれてくるのがどれほど大変だったか、少しは知ってるつもりだよ」 「地球人はそのぐらいでへばるぐらいヤワじゃねーの。あんまり舐めてもらっちゃ困るぜ、ギル」  ブーツの踵を鳴らして立ち上がると「勇ましいね」とギルが笑う。「気持ちのいい日だし、帰る前にどこか寄っていかない?」 「ギルがいいならいーけど。なんか欲しいものあった?」 「いや、特に。ただ君の隣に立ってたり歩いたりしたいってだけかな」  飛び越えようとしていた石段に見事につまずき、なんとか転ぶのを堪えてギルを睨みつけるように振り返る。「一流ダンサーともあろう君が。可愛らしいことだね」 「うるさい。寄るとこどこでもいいなら俺が決めるぞ。激ヤバスポットでも文句言うなよ」 「いいよ。君が隣にいるからね」 「ギル! 段差のあるところはそれ禁止!」 「はいはい」  鉄パイプを捻じ曲げて作られたような劇場をぐるっと見渡して「ここが激ヤバスポット?」とギルが片眉を上げて問う。 「いや、ここはめっちゃ安全。タワーの裏側からがヤバいんだよ。さっき見えたろ。あそこに一旦入ったら、無傷で帰ってこれるなんてまず思っちゃいけない」 「君も行ったことある?」 「2回だけ」  シャツをめくってそのときにできた脇腹の傷を見せる。 「おー」 「これは最初のときで、次のときは目の辺りを殴られただけだったからすぐに治ったんだ。雑魚で助かったよ」  やがて、共通語の断片のようなものを常時叫び続けている客とボイスチェンジを使っている明らかに怪しげな相手とスピーカーで電話中の客の二人が入ってきて、古びたスクリーンに映像が流れ始める。配給会社のロゴとともに流れる古びた音楽が、素材はどこも冷たそうなのに不思議と暖かみのあるシアター内を満たした。 「この人ね、このあとすぐ撃たれるの。あっちの、目つき悪そーなおじさんに」  オープニングが終わってまた新しい客が入ってくると、スクリーンを指さしてギルに話しかけ始めた。 「あ、そうなんですね。それは大変な展開だ。親切にどうもありがとう」 「いいのよ。あとこの人はね、このあとあの人に告白するけど振られる」 「え、じゃあ誰と結ばれるんの? いいやつそうなあいつとか?」  気になってしまい思わず身を乗り出して会話に混ざると「あの人は死ぬ」と客が彼の運命を冷酷かつカジュアルに告げた。 「死ぬの? え、そーいう映画なのかよこれ」 「そんなバッドエンドっぽい感じを迎えるようには思えないんだけど……」 「みんな死ぬよ」 「「みんな死ぬ?!?!」」
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