エンゲルガルテン—光の庭—

8/15
前へ
/15ページ
次へ
 冷たい雨が行くあてもない男に降り注ぐ。フィルは下町を彷徨った。  抱える荷物は筆や絵の具といった画材ばかり。行き着いたのは町外れに捨てられたように建つ教会の跡地だった。壁には大きな穴が空き、野良猫たちが突如現れた男の周りを迷惑そうに歩き回る。フィルは祭壇の奥へ回り壁の前に荷物を下ろした。 「マーガレット様……」  目に浮かぶのは傷ついた彼女の瞳。そして残された血の跡。柔らかな肌にナイフを突き立てるマーガレットの姿が過ぎり、まさかと打ち消す。だが彼女を追い詰めたのは間違いなく自分だ。  フィルは罪の意識に囚われ、汚れた手で顔を覆った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加