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冷たい雨が行くあてもない男に降り注ぐ。フィルは下町を彷徨った。
抱える荷物は筆や絵の具といった画材ばかり。行き着いたのは町外れに捨てられたように建つ教会の跡地だった。壁には大きな穴が空き、野良猫たちが突如現れた男の周りを迷惑そうに歩き回る。フィルは祭壇の奥へ回り壁の前に荷物を下ろした。
「マーガレット様……」
目に浮かぶのは傷ついた彼女の瞳。そして残された血の跡。柔らかな肌にナイフを突き立てるマーガレットの姿が過ぎり、まさかと打ち消す。だが彼女を追い詰めたのは間違いなく自分だ。
フィルは罪の意識に囚われ、汚れた手で顔を覆った。
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