甘いものが嫌いと言われましても

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「ほら」  多分、浮かれているのを隠せはしなかっただろう。隠すつもりもなかった。そんな葉の前にす。と、貴志狼の手が伸びてくる。 「なに?」  意味が分からずに首を傾げると、少し怒ったような顔。でも、それが怒った顔ではないのを葉は知っている。それは、口下手な貴志狼が本心を伝えたいときにする顔。長い付き合いだから、それが分かった。 「手。だせ」  言われるままに両手を差し出す。 「こっちだけでいい」  そうすると、貴志狼は葉の左手を取った。そして、心臓に一番近い指に何かが通る。 「?」  それは、銀色に光っていた。 「お返しだ」  それは、びっくりするくらいに葉の指にぴったりだった。 「これって……」  同じものが貴志狼の指にはまっているのを葉は見た。だから、それが、どんな意味を持っているのか、すぐにわかった。 「いらんかったら捨てていい」  視線を寄越さずに貴志狼が言う。 「僕のために選んだの?」  向こうを向いてしまった視線は再び葉を見るまでに随分とかかった。 「そうだ」  まっすぐに強い視線が葉を見ている。 「じゃあ、とっとく」  葉は答えた。  ある2月の。少し暖かい日の出来事。  きっと、葉にとっては一生忘れられない日になる。そう、予感させる日の出来事だった。  
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