キミバナレ

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 結婚式なんてしなくていいんじゃない、と言ったのは私だった。結婚なんてとんでもないことをしてしまったことはもはや仕方ないとしても、無理な同調圧力で友人知人から金を巻き上げて自分たちを主役にしたパーティーなど開く気にはなれなかったからだ。でも、どちらかというと彼のほうが乗り気というか「自分は結婚式も挙げられないような甲斐性なしじゃない」という気持ちのほうが強いようだった。一般的には「結婚式は花嫁のものだから」という認識が強いけれど、我が家はそのパワーバランスが明らかに異なっている。そこに両家の両親その他が「加奈子(かなこ)さんの花嫁姿を見たい」と援護射撃したことも手伝って、私はついに陥落した。  彼は私がどんなウエディングドレスを試着しても手放しで喜び、いろんな角度から写真を撮った。それでいて、どれが一番よいと思ったかを訊いたら「加奈子が好きなものを着てほしい」と言われ、初めて私はそこでカチンときて、猛然と抗議した。こっちはあんたのタキシードと違って、脱ぎ着するだけでも一苦労なのだ。これとこれのどっちかがいいな……という提示があればまだ納得は行くけれど、すべて丸投げとは何事か。いつも私が淹れた茶を飲みながら聞かされてる、ダラダラと中身のない話をするおじさんがいるでしょう。今のあんたはあいつと一緒だよ。  すると彼は肩の力を抜きながら、諭すような、どこかあやすような、敵意などまったく見せない声色で言った。 「男なんてバカだから、好きな人がモデルだったらなんでも許せるなぁって思っちゃうんだよ。それに実際、どの加奈子も可愛かったから俺には決めらんないわ」  ああ、そうなの。わかった。  いいな。おまえ今、どんな私でも可愛いって言ったよな。言質取ったからな。だったら私だって、人生において二度と着ないようなぶわぶわでド派手なドレス選んでやるから。それがあんたにとってどんなに恥ずかしくても、腕を溶接したみたいに離してやらないから。  私は俯きつつ、半ばやけくそになって、大きなパフスリーブのついたプリンセスラインのドレスを指差した。
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