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「あれ、ジェイは? なんでいないの!?」  ある日小学校から帰ると、いつも尻尾を目一杯振って出迎えてくれた飼い犬が見当たらなかった。  小さな頃からずっと傍にいた、私と一緒に育った中型のミックス犬。  知り合いの家で飼ってた柴犬が生んだ仔を貰って来たんだ。外飼いだったし『お相手』、つまりお父さん犬は不明らしい。  だから柴のハーフ、になるのかな。お母さんより一回り大きくなっちゃったけど、色と顔は柴犬っぽかった。  一人っ子の私の、兄で弟で友達だったの。とても大切な『家族』の一員。  そのジェイがいきなりいなくなって、私はパニックになってあたりを探し回った。  近所の人も一緒に心配してくれてたわ。だけど……。  地方都市郊外の住宅地に並んだ建売の一つ。  庭に繋いで飼ってた犬が、首輪も残さず消えるなんて普通じゃありえない。  そう、『普通』ならね。 「騒ぐな、和美(かずみ)! どうでもいいだろ、あんなうるさい犬。勝手に逃げたんだよ、バカだから」  父親に怒鳴られて、私はわかってしまった。  ──ああ、こいつだ。こいつがジェイをしたんだ。  母さんと私が可愛がってた犬を、こいつが邪魔に感じてたのは知ってた。  でも世話は全部私たちがやるから何もさせたことないし、ジェイは無駄吠えもしないから「うるさい」なんて勝手な言い草でしかない。  本当は室内飼いしたかったけど、父親が強行に反対して仕方なく外で飼ってた。「犬なんて汚い。家に上げるなんて冗談じゃない」ってさ。  犬がいなくなったって、誰もお前を必要としないし愛さないのに。その程度のこともわからないの?  ……わかる頭があれば、最初からそんなことしないか。
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