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『和美。あの男、なんか寝付いてるらしいわ』
週末の恒例になってる通話で母さんが零す。
『多分もう長くないんじゃない? 病院行くのもやめたらしいね。どうせ現実見るのが怖いだけのくせに。ああいう性格だから気にしてくれる人もいないし、私に電話でグチグチ言って来たの。まあ「来い」ってことね』
「いい加減着拒しなよ。あんなやつの相手する義理ないんだからさ」
『したいんだけどねー。逆上してあちこち訊き回られたら周囲の方に迷惑だと思っちゃって。ほら、あいつ自分のことしか考えてないでしょ? ああ、でももう大丈夫なのかしら。……早く「お迎え」来て欲しいわぁ』
何度目かも覚えてない私の苦言に、母さんの嫌そうな声。スマホの向こうの表情までありありと浮かぶわ。
「わかった。だったら私が一度見に行ってくる」
感情込めず平坦に答えた私に、母さんは「そ」とだけ返して来た。
この人には言葉の裏もちゃんと伝わってるはず。
私と母さんの間には、離れていても目には見えない絆がある。たった一人の大事な親で家族だからね。
阿吽の呼吸で通じるものが確かにあるのよ。
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