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【3】
「お前が殺したんだよね? ジェイを保健所に連れて行って」
久しぶりに顔を出した、生まれてから中学卒業まで住んでいた家。
懐かしさなんて欠片もない。
母さんと二人で離れてから初めて。で、最後の訪問になれば……。
ううん、もっと大事で楽しみなことがあるじゃん。
「そんな昔のことを今更……」
屈むことさえしない私の唐突な台詞に驚愕してる、足元の布団に横たわる萎びた男。
もう碌に動き回ることもできなくて、買い物にも行けないから食事もしてないみたいね。
水だけは飲んでるんだ。
板張りの床に、いくつも転がったグラスや湯呑みを見やって考える。
トイレもどうにか這いずって行ってんのね。
ああ、だからLDKに布団敷いてんのか。キッチンもトイレも目の前だもんね。
背に腹は代えられない、ってか? ろくでなしには相応しい末路だねえ。
地方の住宅街で、それなりに近所付き合いは密なのよ。
三人で暮らしてた頃は、踏み込み過ぎることなく適度な距離を保った関係が成り立ってた。
都会でも田舎でもない、すべてが程々でちょうどいい街。それが何故、今は孤立してるのかも理解してないんだね。
そりゃあご近所のおばさま方だって、お前なんかと関わりたくないでしょうよ。
もう赤の他人の母さんに命令する前に、頼るところなんていくらでもあるだろうに。
まあでも、こいつには無理か。
ハリボテみたいな自尊心だけが肥大したクズには。
私が助けに来たとでも思ってるの?
お前のために骨を折るような奇特な人間なんているわけないって理解してたら、もうちょっとはマシな最期迎えられたかもね。
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