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「昔だったら何なの? 私は忘れてないし、これからも忘れないよ。恨んで憎み続ける。お前が死ぬまで、──ううん、死んでも」
「和美……」
仁王立ちのまま見下ろした老いぼれの、震える声の滑稽さに笑いが込み上げるのを必死で抑えた。
今は、まだ。
そうね、あれから三十年近く経ってるわ。
で? だから何?
お前にとってはとっくの昔に終わったどうでもいいことでも、こっちには違う。
「ああ、心配しなくても何もしないよ。何も。お前なんかのために自分の手を汚す気ないから」
「か、かず──」
掠れた声。怯えて歪む表情。
最後の台詞と冷笑の意味は流石に通じたらしいね。
──もう外にも行けない、大声も出せないお前は、餓死するまでこのまま放置されるんだ、って。
私と大事な存在を引き離したんだから、今度はお前の番よ。
殺された『彼』の分まで、できる限り苦しんで人生から退場してもらう。誰にも存在を無視されたまま、恐怖の中を独りで。
心の底から笑うのはそのあと。
これで社会の不要品が一つだけでも片付くわ。一日も早く、くたばってくれないかな。
いや、一日でも苦痛を長引かせる方が愉快かしら。
「じゃあね〜。次見るときには、もうお前はただの『モノ』だろうけどさ」
次はいつにしようか。
あんまり放置して悪臭が出るほどになったらご近所に迷惑だし、だからってもう二度と生きてる汚物に会うのなんてまっぴらよ。
──この季節ならすぐに腐ることもないから、二週間、ってとこかな。
この「人間の出来損ない」を、私の人生からもこの世からも完全に消してしまうまでには。
~END~
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