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 ただ、家なら遊びで済む。  幼稚園の頃から日常的に繰り返しており、母も面白がっている印象だった。 「ママ。これ食べていい……?」 「え? ええ、いいわよ。『若葉』ちゃん、またごっこなの?」  水色のスカートの「青葉」に、母が笑う。  ──なんでこんなトロい子と一緒にされなきゃならないのよ。もう嫌! うんざりだわ。  青葉が何も悪いことなどしていなくとも、「おとなしくていい子」の若葉が常に隣にいるだけで比較される。「おとなしくない、いい子じゃない」と見做されてしまうのだ。  若葉さえいなければ……。  いや、それも違う。  若葉がいなくなり、この家の娘が青葉一人きりになったとしても問題解決にはならない。  きっと皆が言う筈だ。「若葉ならそんなことはしない、おとなしいいい子だった」と。確実に。  そして買い与えられるのは「青葉に似合う」水色の服。  青葉が一番欲しいものは何だろう。  好きなように振る舞う自由。ありのままの言動で愛され、受け入れられる状況。  ……おそらくは無理だ。皆の記憶に「若葉」がいる限り。同じ、だからこそ。  それならば、いっそ──。
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