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【3】
「未散。俺たち終わりにしよう」
「……え?」
一瞬、亨に告げられた言葉が理解できなかった。喉が詰まって声が出ない。
仕事を終えて、口数の少ないあなたと帰って来たわたしの部屋。
ダイニングの椅子に座る素振りも見せず言い放たれた台詞に、頭の中が真っ白になる。
どうして!? 意味がわからない!
わたしは可愛い彼女だったでしょ? いつもあなたのことだけ考えて、いつもいつもあなたのために──。
「お前ヘンだよ。会社の子とちょっと挨拶や立ち話しただけで、勘繰って責められてさ。俺は誓って余所見なんかしたことないのに、お前は全然信じてないじゃないか。……もう、疲れたんだ」
「待って! 亨、今日は泊まって。……お願い、今日だけは」
くるりと背中を向けようとしたあなたの腕に、必死でしがみついて懇願する。
「……わかった。今日だけ、な。これが最後だから」
根負けしたように溜息をついたあなた。
帰さない。離さない。他の女のところになんか行かせないわ。
そうよ、絶対に。
──あなたはわたしのものよ。
「ねぇ、亨。お風呂に入りましょうよ。今日は一緒に」
迷いながらも頷いたあなたの気が変わらないうちに、手を引いてバスルームへ向かう。
「わたしお水飲んでくるから、先に入ってて」
彼をバスルームに押し込んで、キッチンへ取って返した。
どうしても必要なものがあるのよ。
だってあなたを帰したくないんだもの。これ以上変わってしまう前に。
わたし以外に笑顔を向けないように。
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