AKITAINUからの兄妹

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 危機に陥った月基地を援軍に来た宇宙艦隊は信じられない光景を目にした。 なんと基地が滅茶苦茶に破壊されている――  「間に合わなかったか!」と、司令官は大きく溜息をついた。  だが幸いにもSOS信号をたどると、救命シェルターは無事だったので、基地で勤務しているクルーの犠牲は最小限度で済んだようだ。  彼らはまずクルーを救助して、この悲劇の張本人の討伐に向かおうとしたが、宇宙基地のリーダーから「よしたほうがいい、宇宙戦艦の攻撃くらいじゃビクともしない。月の武器を総動員しても勝てない相手だ」と、注意を受けて、まず偵察機を向かわせると、月基地を襲った怪物は夜になった月世界で、ボール状の殻に閉じこもり、じっと暴れる時を待っている様子だ。  「どうやら寒いのが苦手らしい。ここらの表面温度はマイナス170度だ。それが昼になれば110度になる。その頃になれば、もう手がつけられない。奴が動きださない間に逃げた方がいい」  だが宇宙艦隊の参謀長の意見は反対だった。  「気温が低いと動けないなら、かえって好都合ですよ、この旗艦、黄龍(おうりゅう)のエネルギー弾は月の基地に配置したミサイルより強力です。必ず仕留めて見せます!」  司令官は生存者を救助すると、艦隊を向かわせて一斉射撃したが、怪物の殻は予想以上に頑強でどうにもならない。  目を覚ました怪物は全身にあるフジツボの様な突起物からビームを出すと、反対に艦隊の数を減らしていく。  なんとも強力なビーム攻撃で、まるでナイフでこそぎ落とすように甲板に穴をあけていくのだ。  「おそらく、あの光は破壊するためじゃなく、ああやって物質を奪っているんだ! 物質移送といえばいいのか……。あれじゃどんな装甲も意味をなさない」と、月基地のリーダーから助言されて司令官は眉をひそめた。  「なんだって?」  「敵ながら理にかなった侵略方法だよ。現地調達して補給する兵隊みたいなもんさ。光を浴びた物質は怪物のエネルギーになるか、あの破損した殻の補修に利用されるのさ。まるで飢えた豚みたいな勢いで施設を食い荒らすんだから、たまらんよ」  「あんなものがいたら、月基地の再建どころか。宇宙開発をあきらめないとならなくなる!」と、司令官が臍を噛めば、月基地を失ったリーダーも悔しそうに「あの怪物の背後には、我々人類の宇宙開発を望まない異星人の悪意を感じるね」と、無念そうだ。  その時だ、いきなり怪物の殻に槍状の光が命中して大きな穴が開いた――と、思ったら、怪物はエネルギーを吸収しきれず粉みじんに吹き飛んだ。  「いったい! なぜ!」と、誰もがいぶかしがっていると、月基地の生存者から、一人の男がつまみ出されてきた。  「貴様! 何者だ! 基地の人間じゃないな!」と、月基地のリーダーが詰問すると、男は、「バレちゃしょうがないや、拷問されたらたまらん、降参だ」などと、あっさりと手をあげた。  「俺は母星からの指令で、地球を滅ぼしに来たんだが。こうも簡単に生体兵器がやられるとは思わなかった」  「なにいい!」と、リーダーが怒ると、「おっと、恨まれる筋合いはないぜ、予定じゃ。ここで《ガドクライ》を大きく成長させて、地球に落下させる予定でいたんだからな」  「なに? ガドクライ?」と、司令官が訊けば、「生物兵器の呼称さ――ところで司令官、もし500メートルの物質が地表に衝突したらどうなる?」  「え?」  司令官は月基地のリーダーと顔を見合わせた。  「クレーターだけじゃねえ、地上を衝撃波が駆け巡り、いったい何十億人死ぬのやらだ? それだけじゃねえ、海も熱で、あっという間に蒸発するだろうな……。そうなりゃ吹き上がった粉塵と水蒸気で空は覆われて、氷河期へ逆戻りだ……。かわいそうなのは何の罪もない動物と植物だな。それだけはなんとしても、止めたいね、こう見えても動物好きなんだ」  「貴様!」
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