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「この野郎!」
思わず参謀が胸ぐらをつかんで殴ろうとしたら、わざとらしく怯えたふりをして、捕虜はこう言った。
「ま、まて! 俺は人類絶滅を命令されたんだぜ、それがどうだ、まだ一億人も殺しちゃいない! たった数十人だ」
「そんなへ理屈が通るか!」
「これは戦争なんだ、あんたらだって核兵器を落として14万人や7万4000人もの仲間を焼き殺した奴を英雄にしたじゃないか、それに比べればみみっちいもんだぜ!」
司令官が参謀を止めた。
「止めておけ、殴る価値もない」
「しかし、こいつ!」
そういう参謀の手を捕虜は振り払った。
「おお、地球人はおっかねえ……。どうだ? 重要な情報を教えるから、取引しないか? そのかわり命だけは助けてくれ」
「取引だと?」と、司令官が眉をひそめたが、捕虜は揉み手しながらヘラヘラと話を進める。その姿は街のチンピラだ。
「へへへへへ、あんたらにとって、とっても重要な情報だ。これで地球は侵略から救われるかもしれねえ」
「ふざけるな!」と、言う参謀を「まあ、まあ」と止めて、司令官は「わかった、本当に重要だと認めれば望みどおりにしてやる」と、約束した。
「司令官!」
そういう参謀に司令官は「これは超法規的な処置だ。我々はあまりに相手のことについて知らなすぎる。こいつは下っ端だ。銃殺しても意味がない。せいぜい捕虜として情報を提供してもらった方が得策だ」
すると捕虜は「さすが、司令官様は話が分かるぜ! へへへへへ、じゃあ、あの兵器を破壊した奴だが、あいつも地球人じゃない。あのエネルギー波はバリアーに近いな、それもとてつもなく強力なもんだ。その技術があれば地球を救えるぜ」
「そいつはどこから、そのバリアーを放った? 敵か味方か?」
「おそらく中立、いや、少なくとも俺たちほど悪意は持っちゃいないようだ」
参謀が「我々を信用させる罠かもしれません!」と、進言するが、司令官は「いや、それでは、こいつの生体兵器とやらを破壊した意味がわからん、どう考えてもこいつが優勢だったんだからな……。いずれにせよ、新たな異星人が出現したというなら、コンタクトをとる必要がある」
「あいつらの宇宙船のステレス効果がすごいぜ、こっちの技術でも探るのに手間がいるが……。ズバリさっきの光線はAKITAINUの附近から照射されたもんだ」
捕虜はブレスレット型の装置で空間に映像を照射して、謎の宇宙人の位置を教えた。
AKITAINUは日本の月面探査機、SLIMが撮影した画像に映った岩の呼称だ。
*
ここはAKITAINUの附近に停泊している円盤の中、そこで生体兵器をやっつけることが出来て、一息ついた異星人の鶴見兄妹がいた。
鶴見というのは地球で暮らしていた時に使った偽名だ。
「これで、六年間、世話になった地球に恩返しができた……」と、鶴見(つるみ)明空(あくあ)は溜息をついた。見た目は二十歳の青年だ。
後ろ髪を引かれないわけではなかったが、しかし血をわけた妹の将来を考えれば凶悪な異星人に狙われた地球で暮らすわけにはいかない。
「本当に行ってしまうの兄さん?」
今年、十四歳になる妹の鶴見(つるみ)希愛(のあ)は不満顔だ。
明空はその顔を見るとつらい。
だが、(此処は心を鬼にしなければ、先の惑星間戦争で両親を亡くし、自分たちの惑星を異星人に奪われて同族は散り散りになってしまったんだからな)と、自分を叱った。
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