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「父さんたちの最期を見たろう! あいつらは飢えた狼みたいなもんだ。もう地球は安全に暮らせる場所じゃない。心配するな……。この銀河のどこかに、きっと静かに暮らせる場所はあるから」
「そんなこと心配してるんじゃない!」
「え?」
「兄さんは、いいの? それで?」
「あの星で戦えと言うのか? 冗談じゃない! 一人で何ができる!」
「地球の人たちだっているじゃない!」
「彼らの科学力ではダメだ。だいたいこの円盤だって武器を積んでいるわけじゃない。バリアーを一点に集中させて――いわばエネルギーの槍に変換してぶつけただけだ……。なんとか間に合わせの武器でやっつけたものの、次はわからない。奴らはもっと強力な武器を使うだろうからね」
「それでも、この円盤の出力は連中の戦闘母艦の三倍だわ、かなわない相手じゃない」
彼らが乗っている円盤は直径30メートルの巨大なもの。円盤というより形状は自動車のタイヤのようだ。
これで銀河の中央にある生まれ故郷から逃れて来たのだった。
「異星人の戦争に巻き込まれてどうするんだ、我々には関係ない話だ」
ところが、その円盤を地球艦隊が取り囲んだ。司令官が短距離ワープで、兄妹に気づかれない間に包囲したのだった。
「そ、そんな、なぜ此処が!」
驚いていると、メインパネルの映像が地球の宇宙戦艦の司令部を映し出した。
司令官は首を垂れて、こう兄妹に礼を言った。
「君たちが、あの怪物をやっつけてくれたんだね? ありがとう……」
明空が口を開いた。
「私たちは別の星系へ避難します。どうか黙って行かせてください!」
すると司令官は首を横に振った。
「まことに心苦しいが、君たちを見送るわけにはいかない!」
「ええ!」と、驚く明空に、こう司令官は懇願した。
「頼む、力を貸してくれ、悔しいが侵略者から地球を守るのは我々だけでは無理なんだ!」
「悪いけど……」そう、明空が断ろうとした時、希愛が口をはさんだ。
「ちょっと待ってください、あなた方はどうやって、私たちが此処にいることを知ったんですか?」
「それは捕まえた捕虜から……」
すると、希愛は真っ青になった。
「いけない、そいつ《ガドクライ》だわ! あなた方の宇宙船で地球に到着したら、巨大化して自分の胞子をばら撒く気なんです!」
「ええ? あれが兵器? 人間サイズの地球人とよく似たタイプだったが?」と、司令官が戸惑うと、明空は焦れて叫んだ。
「騙されてはダメだ! 間違いなくそれが本体ですよ! 人間に擬態しているんです!」
「ええ!」と、司令官と参謀は顔を見合わせた。地球の概念では兵器がスパイのまねごとをするなどありえない。兵器は敵を倒す道具なのだから。
続いて希愛が説明する。
「自分たちの武器と同じに考えてはいけません。奴らの兵器はすべてAIで制御されて行動します! 命じられたら、敵を学習して、自分で作戦を考え、分裂して数を増やす兵器なんです! 大きさも関係ありません! 他を吸収してどんな大きさにも姿にもなります!」
明空は叫ぶように注意を呼び掛ける。
「あいつらは必ず奇襲攻撃を仕掛けて来る! それが奴らの常套手段なんだ! 私たちの星もそれでやられたんです! あいつは水素をエネルギーにして動きます! つまり水がある場所ならどこでもいいんです」
「それじゃ月を狙ったのは、宇宙開発妨害のほかに地球に行くための交通手段と、水を補給する為でもあったのか⁉」
参謀の質問に大きく明空はうなずいた。
「我々は水がなければ生きられない。だから月基地には水が豊富にあったし、この戦艦にも水が貯蔵してある。奴にとって地球の宇宙船はごちそうなんだ! 第一に発見されたガドクライは寒さに弱くて動かなかったんじゃなく、あなた方の到着を待っていたんです! あいつを監禁してるのは非常に危険です! 人間の60%は水分です。すぐ捕食されてしまう! 早く宇宙へ捨てないとダメだ!」
だが間に合わない。
いきなり通信がジャックされて、牢屋に監禁された捕虜が割りこんで来たではないか。
「あーはははは! 司令官、円盤まで送ってくれてありがとうよ、あいつらが最大の障害だったんだ! 始末したら地球を一気に食い尽くしてやる! こっちはもう腹ペコなんだからな!」
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