AKITAINUからの兄妹

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 驚いた参謀は喉を詰まらせた。  「な、なんだ! どうやって通信に割り込んだんだ! あのブレスレット型の機械なら、没収したのに!」  その時には捕虜は高笑いをしながら、巨大化し始めていた。背中から例の光線を出して内壁を吸収していたのだ。  「生憎この戦艦と俺は同化しつつある。当然、この船の通信は傍受できるのさ! その兄妹は手ごわくて、下手に近づけばすぐにやられてしまう。だから仕方なく地球人なんかの捕虜になったのさ。あはははは! 正確には貴様らは俺の弁当であり、人質だ! 時代遅れの地球の宇宙船じゃ俺の攻撃は防げない。みんな喰い尽くしてやるぜ!」  防御するには円盤のバリアーでガードするしかないが、宇宙艦隊を守ってバリアーを広げれば効果が薄れる。槍にすれば自分がノーガード――敵は艦隊もろとも、鶴見兄妹を滅ぼす気なのだ。  しかし醜怪な怪物だ。先ほどは殻にこもっていたから姿がわからなかったが、殻から出た姿は人間を引き伸ばしたような姿をしており、軟体動物か芋虫を連想させる。若干だが人の痕跡をとどめた顔と大きな爪がある手足が爬虫類に似て、とても不気味だ。  司令官は「隔壁封鎖、この船は、もう駄目だ、総員退避!」と指示を出して、避難民たちを脱出ポッドに誘導した。  「皆さん落ち着いてください! 脱出ポッドは全員乗り込めるように設計されています!」  明空が「こうなったら……」と、言いながら、操縦席のスイッチを押すと、円盤の側面の外壁が変形しだしたではないか、二本の触手型のアームを本体に巻き付けて格納していたのだ。アームが外れる前は単純に分厚い円盤――といった感じだが、アームを作動させると本体は車軸でつないだ二輪の車のような形状になる。つまり真ん中のタワーで上下に連結されたドームで本体は構成されているわけだ。  アームは操縦室がある上部のドームから伸びており、そこで操作するようだ。  その姿は昔のSF映画に出て来る宇宙ステーションそっくり。  アームは伸び縮みするタイプで、連結部分を外せば長さは90メートル、円盤は相手が旗艦の装甲を破って外へ出て来たところを、触手型のアームで絡めて動きを止めた。  これでは物質輸送光線の発射口を旗艦から出せず、周囲の軍艦にビームを放つことが出来ない。  だが生物兵器のAIは自己顕示欲が強くなるように設定してあるらしく、交信を止めず、自分の意思を音声で伝えてきた。  「こしゃくな! だがビームがダメなら、この腕で直接攻撃してやる! へへへ! 怖いかい! 獲物は恐怖心を与えた方が肉の味が増すんだ!」と、脅しながら、巨大なかぎ爪で円盤の装甲を剥がそうとする。  弱体化したバリアーは五、六回の衝撃には耐えたが、それからは徐々に上側のドームの表面に傷がついていく。  「ひゃーははははは! 思った通り、ほかの船までガードする範囲を広げたから効果が弱まってる! おかげでバリアーで包まれた他の船は砲撃が出来ない……。たとえ砲撃できても意味ないがね、さあてと、バリアー照射装置をつぶして円盤ごと喰ってやるぜ!」  その時、まだ指令室にいた黄龍の艦長は、思いがけず砲撃手から「艦長! まだ主砲は生きています! 化け物が潜入している我が艦だけ、円盤のバリアーで保護されていませんが、だからこそ砲撃が可能なのは私らだけです」と、報告を受けた。  お互い宇宙戦艦の内線ではなく、宇宙服の通信装置を使っているので、《ガドクライ》には会話を傍受できていない。  「お前ら、まだ退避してなかったのか!」  「艦長だって、同じ考えだからこそ、まだ指令室にいるんでしょう? ですがオートで操作すれば黄龍と一体になりつつある怪物に気づかれます。手動だからこそ、反撃のチャンスがあるんです!」  「よし、わかった! 主砲の砲門開け! 撃ち込んでから脱出ポッドで退避しろ!」  「了解!」  その瞬間、主砲が火を吹き、エネルギー弾が《ガドクライ》に撃ち込まれた。  さすがの生体兵器も近距離ではダメージがゼロというわけにはいかず、一瞬だが、動きが止まった。  「今だ!」と、明空はバリアーを下側のドームの中央で集中させて槍状にすると、生体兵器に発射口を向けた――黄金の閃光がきらめく。  エネルギー波を浴びた《ガドクライ》は瞬く間に吹き飛んだ。  巻き添えで旗艦、黄龍が大破したものの、砲撃手や艦長は脱出ポッドで避難したので無事だ。  こうして地球は異星人の魔手から逃れたのだった。  この戦いがきっかけで、兄妹はオブザーバーとして地球に残ることになった。  外へ逃げようにも円盤が故障して逃げようがなかったからだ。        *  どこで兄妹を保護したかといえば……。
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