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僕は一つ大事な事を見落としていた事に気付いた。
【4】のイスから始まり、誘導されながらもこうして香美村さんまで辿り着いた。
しかし、そもそも香美村さんはどうしてこんな事をしたんだ?。その理由を考えていなかった。
動機を。
「中城君、遠藤春奈さんのお家を知ってるの?」
うっ。 「知らない。」
「良いわ。私が案内してあげる。」
は?
「いやいや、香美村さんが来ちゃダメでしょ。」
「大丈夫よ。歩いて行ける距離だから。」
いや、そういう意味じゃ……。
「安心して付いて来て。」
そう言うとスタスタと、歩き始める香美村さん。
こうなっては、先を越す事なんて出来ない。
僕は仕方なく付いて行くしか無いのだ。
外履きに履き替え、校舎を出て市街地に向かい歩を進める。
香美村さんは本当に行くらしい。
「腑に落ちない顔ね。」
「まあね。香美村さんの動機が、僕には分からない。」
「あら。そんな事?」
そんな事って。
「ふふ。前にも言ったでしょ、賭けをしてるって。」
賭け?。
「そう、賭けよ。」
「誰としているのさ。」
賭けとは、相手がいてこそ成立するものだ。
「遠藤春奈さんよ。」
え、遠藤春奈って……。え?
そこから、遠藤春奈の家に着くまでの間。
香美村さんは、淡々と事の成り行きを僕に話してくれた。
これは、遠藤春奈との賭け。
不登校の彼女との賭け。
香美村さんは、最近彼女と会って話をしたそうだ。
そこで彼女が今、この学校を辞めようと考えている事を知った。
理由は、【集団の中の孤立】と口にしたそうだ。
「誰も私を気にもとめない。誰も私の存在に気づいてくれない。私の事なんてどうせ忘れている。」そう言っていたらしい。
そしてそれ聞いた香美村さんが、一つ提案をした。
「じぁ、賭けましょう? アナタが忘れられていない事を証明してあげる。直接的な言葉を使わず、クラスメイトを一人アナタに会いにこさせるわ。それが出来た時、アナタもう一度学校へ来なさい。」と。
そして、香美村さんは彼女に今回のこのやり方を伝えた上で実行に移した。
彼女はこのやり方を聞いた時、「バカバカしい」「そんなので、私が連想される訳が無い」と言ったそうだ。
なるほど。
「香美村さん、一つ良い?」
「なぁに、中城君。」
「香美村さんは、何を賭けたんだい?」
賭けならば、当然こちらも何か差し出せなければフェアじゃない。
「あら。 ふふっ。」
ふふ?
「着いたわ。ここよ。」
一軒家の前に立つ二人。
「ここからは、中城君。アナタの仕事よ。謎を解いた責任を取ってきて頂戴。でなければ私。学校を辞めなくちゃいけなくなるの。」
はぁ。そんな事だろうと思った。
全く彼女らしい。そして無鉄砲だ。
「やれるだけ、やってみるよ。」
彼氏が彼女の頼みを断れる訳が無いだろうに。
そして、僕はインターホンを押した。
おわり。
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