失くなったモノ

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失くなったモノ

そんな会話以降、香美村さんから の話題が度々出てくる様になった。 彼女は、手芸部に所属していたらしく裁縫が得意だったらしい。 僕も遠藤さんとは話した事が無い訳では無い。そんな話を聞くと、薄っすらとだが遠藤さんとの数少ない会話を思い出した。 あれは昼食を終えた昼休憩。遠藤さんが教室のカーテンに向かって何かしているのを見かけた時だ。気なって覗くと、彼女はカーテンに空いてしまった穴を裁縫で綺麗に修復していたんだ。 僕が「すごいね。でも、来年新調するって先週ホームルームで言って無かったっけ?」と言ったんだ。 たしか彼女は、「それでも良いの。最後くらい綺麗にしてあげたいじゃない。」と言ったのを覚えている。 周りには他のクラスメイトもたくさん居たし、二人きりという訳では無かった。 まぁ、大した思い出じゃない。 しかし、思い返せばあれが最初で最後だったかもしれない……。 ※※※※※※※ そして数日後、事件は起きた。 朝、教室へ入るといつにも増してザワザワと騒がしい。いつも、始業ギリギリに来る僕は完全に話題に乗り遅れてしまっていた。 どうやら、何か盗まれたらしい。 それから僕は、授業中も耳を澄まし話題の全容把握を試みる、「イス」、「消えた」、「付箋」、「数字の4」といくつかのワードがポツポツと聞こえてくる。 意味が分からない。だが、今さらどう周りに聞いたものか……。 「あら、中城君。」 香美村さんだ。 「ああ、香美村さん、おはよう。」いっそ香美村さんに聞いてしまおうか。 でも、今さら聞くのは何か少し恥ずかしい。 「僕に何か用?」 「別に用事が無いといけないのかしら?」 いちよう僕たちは、大々的に公表はしてはいないが交際している事になっている。 「そんな事無いよ。」 ここは、恥を忍んで聞くとしようか。 「ごめん、香美村さ__。」と言いかけた時、「本当に嫌になっちゃうわ。今朝から廊下で何度も同じ話をしているんだもの。あれではまるで布教師だわ。」とさも迷惑そうに言った。なんとも演技くさく感じる。 「それで。中城君何か言わなかったかしら?」 これもまた芝居がかって聞こえて気味が悪い。 まぁ、香美村さんらしいと言えばらしいのだが。 「いや、香美村さん、何でも無いよ。僕、ちょっと外の空気を吸ってくよ。」そう言って席を立つと廊下へ出た。 廊下へ出るとこれもまた香美村さんの言った通り、一人の男子を取り囲む様にワキャワキャと半円が出来ていた。 男子は、今朝のトピックニュースを他クラスの生徒へ自慢気に話している最中だった。 僕もガヤに紛れてしれっと聞き耳を立てる事にする。
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