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なるほど。
どうやら僕たち2年B組の教室から、『イス』が一つ盗まれたらしい。
最初聞いた時は、たかがイス一つで何を騒いでいるんだと思ったが、布教師の話はそこで終わらない。
当然そこには、誰のがセットとなる。
そう誰の?
盗まれたイスの持ち主は、現在不登校の遠藤春奈のモノだった。
しかも、騒ぎを掻き立てる要因がもう一つ。
ただ『イスが盗まれた。』だけでは、ここまで騒ぎにはならなかっただろう。
イスが置いてあった場所には、わざとらしく一枚の付箋が貼られていたそうだ。
そして、そこには一文字。数字の【4】と書かれていた。
何とも意味深だ。
4、よん、四、し、死………。不登校の生徒の席にそんな付箋。不謹慎ったらない。しかし皆、好奇な目を輝かせて好き勝手に連想し、現在に至る訳だ。
正直、当人を差し置いて何を騒いでいるのやら。
でも、布教師のおかげで大体の内容は把握出来た。
ご苦労、布教師の男子よ。
結論。
まぁ、単なる悪ふざけだろう。
あえてこの祭りに参加するのもバカバカしい訳で、
数日も経てばきっと熱も冷めて、いつもの退屈な日常に戻ると相場は決まっている。
※※※※※※※※
結果、僕に相場を計る知見は無かったようだ。
今思うと、逆にフラグめいていたと自覚せざる負えない。
それから二日後の朝、教室のざわつきに僕は眉間にシワを寄せる。
この浮かれた様な雰囲気は、先日のイスの盗難の時と似たものを感じた。
次は一体何なんだよ。
「花瓶が盗まれたみたい。」
どこからか声がするも、辺りにそれらしい人が見当たらない。別に僕に向けられた言葉では無いのだろうと無視をする。せざる負えない。
「中城君、おはよう。無視?」
その声は紛れもない香美村さんだ。
僕は、目線を水平から30度程下に傾けて言った。
「おはよう、香美村さん。無視なんてしてないよ。」
「嘘。」
まぁ。言われて見れば、香美村さんは僕が声の主を探し無視を決め込むところを、かなりの至近距離で見上げていた訳だ。
「ごめん。」
「花瓶が盗まれたみたい。」
どうやら会話を、一からやり直してくれるらしい。
「へぇ。どこの花瓶が盗まれたのさ。」
香美村さんは、言葉の代わりに一点を指差した。
ああ。あそこの花瓶か。
それは、香美村さんと遠藤春奈さんが毎朝手入れしていた花瓶だった。
「でも、香美村さん。」
「なぁに?」
「どうして、盗まれたって分かるの?先生が何かの用事で借りてるだけかもしれないよ。」
すると、香美村さんは少し俯き気味に廊下を指差した。この身長差で俯かれると、顔はほとんど見えない。でも、少し。少したけ彼女の口角が上がった様に見えた。
「廊下?」
意識すると、デジャヴな光景が目に入る。
布教師…………。
「ちょっと廊下に行ってくる。」
またも、廊下には一人の男子を囲うように人集りが出来ていた。僕も輪の中へしれっと混ざる。
※※※※※※※
なるほど。大体の話は分かった。
第二の窃盗事件。
盗まれた物は【花瓶】。
何故、これが第二と定義づけされるのかは紛れもない共通点を持ち合わせていたからだ。
花瓶のあった場所には、【イス窃盗】時と同様に付箋が貼られていたのだ。しかも、今回は数字の【3】と。
学年中が朝から、この降って湧いたイベントに夢中になっていく。
まぁ、無理もない。【イス】と【花瓶】が無くなり、数字の【4】と【3】。何とも暗号の様に思えてくる。
僕はこの時。
形容し難い、何か胸元に引っかかる。そんな得体の知れない感覚が覚えた。
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