Christmas Night.

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 突拍子もなく告げられたデイヴィッドの言葉に素直に頷く事もできず、許斐は困ったように眉根を寄せた。 「……俺にできる範囲のお礼なら…?」 「そう身構えなくとも、難題を押し付けるつもりはないから安心しろ」 「だって、急にそんな事を言われたら誰だって身構えますよ…」 「なに、簡単なことだ」 「…なんですか?」  拭いきれない不安を浮かべたまま問う許斐の頬を、デイヴィッドは優しく撫でた。 「もう少し、本当の許斐を見たい」 「え…?」 「メールもそうだが、お前の口調は、本来のお前のものではないだろう?」  (とお)も年上のデイヴィッドに対する言葉遣いとしては、ごく普通の感覚で話しているつもりの許斐である。”さん付け”も、デイヴィッドが嫌がるからこそようやく慣れたところだった。これ以上くだけた言葉遣いをしろと言われても、それこそ違和感しか感じない。 「あの…、これでも結構くだけてきた方だと思いますけど…」 「日本人というのは真面目だからなぁ…」  やれやれと、大袈裟に首を振るデイヴィッドに許斐は苦笑を漏らした。 「別に真面目という訳じゃないですよ。ただ、年上のデイヴにため口は…やっぱりちょっと申し訳ないというか…」  口ごもりながらも、そう簡単に直せるものではないと許斐はデイヴィッドに告げた。そもそも、出会って二ヶ月といっても顔を合わせるのは二度目だ。そう簡単に昔からの知り合いのように話せるはずもなかった。幾分かがっかりした様子のデイヴィッドに困ったような笑みを浮かべることしか出来ない。 「けど、努力はしますね? 俺も…あなたには笑顔で居て欲しいから…」  言ってはみたものの、恥ずかしくなって俯く許斐の髪へとデイヴィッドは口づけを落とした。  静かな部屋で、穏やかな空気がふたりを包み込む。自然と腰に回された腕に引き寄せられるまま、許斐は厚く逞しい胸へと寄り添った。ふわりと、フレグランスの良い香りが鼻孔を擽る。すんと、許斐が小さく鼻を鳴らした音をデイヴィッドは耳聡く聞きつけた。 「どうした」 「いい匂い…」 「ありがとう」  言葉とともに額へと落とされた口づけにデイヴィッドを見上げる。その視線の先で、デイヴィッドは柔らかな笑みを悪戯なそれへと変えた。 「だが、許斐も甘い香りがする」 「え…っ? あっ」  すかさず首筋へと埋められたデイヴィッドの顔に、驚く間もなく肌を舐められる。 「っ、……んっ」 「そんなに可愛い声を出すと、止まれなくなる」 「だっ…、ちが…っ」  ときおり甘噛みされる肌が、異様なまでに熱い。当然デイヴィッドにも伝わっているのだろうと思えば、許斐は余計に恥ずかしくなった。わざとらしく水音を立てるデイヴィッドが憎らしい。  本気で押し退ければ逃れられない事はないと思うものの、デイヴィッドを突き放す気にはなれない。けれども羞恥心をそう簡単に拭い去れるはずもなく、許斐はその身を強張らせた。 「許斐」  ふと動きを止めたデイヴィッドが顔をあげる。恐る恐る見上げた先には、どこか困ったような顔をしたデイヴィッドの姿があった。 「デイヴ…?」 「怖かったのか? それとも嫌だったのか」 「…っ」  答えられずにいれば、デイヴィッドは自嘲にも似た笑みを浮かべながらも許斐へと手を差し出した。 「おいで許斐。驚かせて悪かった」 「ごめんなさい…。俺……恥ずかしくて…」 「嫌な訳じゃない?」 「うん…」 「それならいい。お前が嫌がることはしたくない」  髪を撫でるデイヴィッドの手は優しかった。 「あの…デイヴ…」 「どうした」 「俺…、あなたが好きです…。けど、こういう…誰かと付き合うとか……その、慣れてなくて…」 「うん?」 「だから…その……」
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