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続きをして欲しいと、そう言いたいのに恥ずかしくて言葉が出ない。けれど、そんな許斐の気持ちは、とうにデイヴィッドには筒抜けだったのである。
「もう少し、お前の恥じらう姿を見ているのも悪くないんだが…」
言いながらあっという間にソファの座面へと押し倒されて、許斐は慌てた。
「えっ、あ…!?」
「本当に嫌なら、嫌だと言えばいい。その程度のことでお前を嫌いはしない。だが、恥ずかしいだけならば、少し我慢しろ」
「ぇ、んぅ…っ!?」
温かな熱に唇を塞がれる。それまでの優しいデイヴィッドとは別人のような激しい口づけに、許斐は呼吸さえもままならなくなった。僅かに唇が離れた隙に、必死に息をつく。強く吸い上げられた舌から、じんわりと全身に痺れが回っていくようだった。
唇の端から滴り落ちる唾液を満足そうに舐めあげたデイヴィッドに、許斐はようやく解放された。
「は…、ぁ」
「可愛い許斐」
息苦しさに僅かに浮かんだ涙を吸い上げられて、許斐は目を瞬かせる。
「デイヴ……」
「物足りなそうな顔をしているな」
「言わないで…ください」
「何故? 恋人に求められて喜ばない男が居ると思うのか?」
「喜んで…くれるんですか…?」
「今さら何を言ってる。お前が可愛いと、何度言えばお前は自覚するんだ」
呆れたような、困ったような、そんな顔で肩を竦めたデイヴィッドは、ふわりと許斐の躰を抱き締めた。
「船では我慢していたが、今回はしてやれそうにない」
「狡い人ですね…、ニューヨークなんて、俺には逃げようもないのに」
「今ごろ気付いたのか?」
「まさか。逃がされたくなくてついてきたって言ったら…軽蔑しますか?」
「そんな事を言うと、図に乗るぞ」
「……はい…」
小さく頷いて、許斐はおずおずと腕を伸ばした。大きな背中をきゅっと抱き締めれば、逞しい腕にきつく抱き締め返される。
「っ…好き…です」
「 I love you.」
◇ ◇ ◇
許斐が気だるい躰をごそりと動かせば、窓の外はすでに夕暮れの色に染まっていた。目の前に広がるセントラルパークはもちろん、クリスマスのイルミネーションに彩られた街並みが、昼とはまた違った顔を見せている。
「起きたのか?」
「……はい」
「飲み物を持ってこよう。少し待っていろ」
思いのほか掠れた声に自嘲を零しながらも、許斐は寝台を降りようとするデイヴィッドの腕をそっと掴んだ。
「どうした?」
「あ、……いえ」
「そんなに可愛い顔をするな。すぐに戻る」
くしゃりと髪を撫でて、デイヴィッドはそっと許斐の腕を下ろした。
言葉通り、デイヴィッドの背中が許斐の視界から消えたのはほんの一瞬で、ミネラルウォーターの瓶を片手にデイヴィッドはすぐさま寝台へと戻ってきた。
差し出された瓶を受け取ればひんやりと手に心地良い。
「ありがとうございます」
ペキペキと小気味のいい音を立てて開いた瓶に許斐が口をつけていれば、デイヴィッドは寝台の端へと腰を下ろした。
「明日のことなんだが」
「あっ、はい。お仕事ですよね?」
「俺は午前中少し外出するが、お前はどうする」
デイヴィッドの言葉に、許斐は顔を僅かに俯けて考えた。せっかくニューヨークに居るのだから、街を見て回るのも悪くないかと、そう思う。
「俺も…少し、出掛けてきてもいいですか?」
「もちろんだ。ただし、何かあった時は遠慮なく連絡すること。いいな?」
「はい」
素直に頷く許斐の髪をくしゃりと撫でて、デイヴィッドは柔らかく微笑んだ。些か過剰に子供扱いをされている気がしなくもないが、それもデイヴィッドの優しさなのだと思えば素直に嬉しい許斐である。
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