Halloween Night. ―another side.―

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 唐突にもの凄い二択を突き付けられた気分だった。そして、有り得ない出来事が我が身に起こっているとも。  もはや確認する事すらも憚られるほど明確に、デイヴィッドが許斐を口説こうとしている事実。そして、その決定権を今自分が握っているという、有り得ない状況である。  ――待って…。嘘だろ…?  出会ってから十分と経っていないこの状況で、しかもあんな大勢の目の前でやらかした相手を口説こうという人間がどこに居るというのか。 「あ…の…、冗談とか…」  フレデリックとデイヴィッド、どちらもそれぞれに整った容貌を許斐は交互に見やる。 「まあ、その様子なら迷惑という訳でもなさそうだね」 「え?」 「倉科許斐クン。キミがターミナルで受け取った客室のキーは持っているかい?」 「あっ、はい」  有無を言わせぬ雰囲気のフレデリックへと、許斐はポケットに入れていたカードキーを差し出した。  ふぅと、小さな溜息を吐いてカードキーを取りあげた長い指が、胸元から取り出した別のカードを許斐の掌へと乗せる。 「それが、今夜キミが泊まる客室のキーだよ。場所は…そうだな、デイヴにでも案内してもらうといい」 「え…?」  訳も分からずにいる間に、フレデリックはさっさと踵を返してしまう。デイヴィッドとすれ違う瞬間、何かを囁いている様子ではあったが、残念ながらその声が許斐の耳に届くことはなかった。  デイヴィッドに連れられて客室へと辿り着いた許斐は、ドアを開けた瞬間その場に硬直する事となった。 「は? え?」  思わず手の中のカードを見つめる許斐の腰を、ふわりと逞しい腕が抱き寄せる。つられるように見上げれば、可笑しそうに笑うデイヴィッドの端正な顔があった。 「あの、いったいどういう事ですか? 俺が予約した部屋じゃない…です」 「コノミが俺と出会う前にフレッドと何を話したのか知らないが、これは彼からのささやかなプレゼントといったところだろうな。コノミは、フレッドに気に入られたらしい」  気にした様子もなく部屋へ入るデイヴィッドに腰を抱かれたまま、許斐は船上とは思えないほど広々とした部屋へと足を踏み入れた。  大きな窓から見えるサンルームに、広いメインルームの右手には、独立したリビング。左手のドアを開ければ大きな寝台が二つ並んだベッドルームがあった。地上ですら許斐はこんなに広い部屋に宿泊したことがない。  正直言って、許斐が予約した部屋とは雲泥の差があると言っても過言ではなかった。 「どうしよう…こんな豪華な部屋に、本当に泊まって良いのか…?」  思わず独り言を呟けば、すぐ隣から笑い声が降ってきた。 「何というか、コノミは面白いな」 「だって俺、この船に乗るためにめちゃくちゃ節約して、ようやく取れたチケットだって辛うじて海側に窓がある部屋で…! なのにこんなっ」 「なるほど。フレッドがお前を気に入った理由が、何となく分かった気がするな」  くしゃりと髪を撫でた大きな手に再び腰を抱かれた許斐は、デイヴィッドに誘われるままメインルームのソファへと腰を下ろした。 「パレードまでにはまだ時間がある。腹が減ってるなら先に食事を済ませるが」 「緊張してそれどころじゃ…」 「では、コノミが落ち着けるようなものを頼むとするか」  立ち上がり、どこかへ電話をかけ始めるデイヴィッドの背中を許斐はぼんやりと見つめた。  つい気にもせずに部屋に入れてしまったが、果たして良かったのだろうか。そもそもデイヴィッドが本気で口説くつもりなのかも分からない。  ――てか、聞くに聞けない…。  自分を本気で口説くつもりですかなどと、許斐でなくとも聞けはしないだろう。  あれこれと考えていれば、電話を終えて戻ってきたデイヴィッドが隣に腰を下ろした。 「また何か考え込んでいるな」
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