Halloween Night. ―another side.―

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「ここって、予約とかしないと座れませんよね…?」 「まあ、そんなところだな」  さらりと肯定するデイヴィッドではあるが、ふと許斐の脳裏を疑問が過った。 「誰か…約束していたんじゃないんですか?」 「何故?」 「だって予約制なんでしょ? だったら誰かとパレードを見るために席をとってたんじゃないんですか? デイヴさん、ひとりでパレード見るようなタイプじゃないですよね」 「コノミを連れてくるために抑えたと言ったら?」 「またそういう冗談を…。今日の今日で予約できるはずないじゃないですか」  すぐにばれる嘘を吐くなと許斐が笑えば、デイヴィッドもまた小さく笑った。 「船が出港した後、何のために俺が一度お前の部屋を離れたと思う?」 「それは……」 「種明かしをすると、ここは別に予約制という訳ではない」 「えっ?」  意味がわからずに許斐は首を傾げた。 「正確に言えば、ここは宿泊に含まれた席だ。俺の部屋の」 「つまり、パレードを間近で見られるプラン…?」 「ああ」  こともなく頷くデイヴィッドに、許斐は慌てて脳内をフル回転させた。けれども、この船にそんな特別なプランはなかったはずである。  この船のことは満遍なく調べたはずだと許斐が言えば、真相はいともあっさりとデイヴィッドからもたらされた。 「プランという言い方がまずかったな。公開されているものではなくてな」  船を所有するクラシック・ライン社から、贔屓の客だけに送られる招待状があるのだと、デイヴィッドはそう言った。 「ひとりで見るつもりはなかったので断ろうと思っていたんだが、お前と出会って、連れてこようと思った」 「……あなたはいったい何者なんですか…?」 「そう警戒心を剥き出しにされると困るが、ただの経営者だよ。この船は、気に入っているので休暇によく利用しているだけだ」  困ったように笑うデイヴィッドはきっと、許斐との部屋でのやり取りを忘れてはいないだろう。 「住む世界が違うと気にしているのは承知しているが、では俺はどうやったらお前を口説くことができる? 年齢も立場も関係なく、コノミを好きになってしまった俺はどうすればいい」  言い募るデイヴィッドの口調はやはり真面目なものだった。  ぽつりと、許斐の唇から言葉が零れ落ちる。 「俺を揶揄っているだけだとばかり…」  ごめんなさいと小さく謝れば、大きな手がくしゃりと髪を撫でた。 「では、こう考えてくれないか? コノミは――…、そう、シンデレラだ」 「はい?」  聞き返した許斐に、デイヴィッドは些か芝居がかった仕草で語り始めた。 「ハロウィーンの夜に、魔女がかけた魔法で美しいドレスを纏ってお前はパーティーにやってきた。そこで、王子様と出会う。お前は魔法が解けるまでの時間をめいっぱい楽しめばいい」  どうだ? と、そう言って笑うデイヴィッドに、許斐は思わず吹き出した。 「っふふ、デイヴさんて、面白い人ですね。俺が…シンデレラって」 「コノミが身分が違うなんて言うからだろう」 「なら、俺が出会う王子様はデイヴさん?」 「もちろん。俺と、一夜限りのハロウィーン・パーティーを楽しんでくれればいい」 「そう、ですね。そうします」  一夜限り。そう言ったデイヴィッドの言葉がやけにしっくりと腹になじんだ気がした。  ――そう。そもそも俺は、それを楽しみにこの船に乗ってるんじゃないか。  【Halloween Night.】は一夜限りの限定イベントだ。どうせならデイヴィッドの言う通り、王子様のエスコートで楽しめる機会を堪能すればいい。  部屋でほんの少しだけ考えたこの船の魔法の話。まるでそれが本当なのだと言われているようで、なんだか可笑しくなる。 「じゃあ、宜しくお願いします。俺の王子様?」
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