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道化師、というには些かならず丁寧なスタッフに礼を言い、許斐は諦めていた光景をカメラに収めていった。
そんな許斐の姿を、デイヴィッドが穏やかに眺める。
「写真を撮るのはいいが、容量は残しておけよ? まだまだ、コノミが喜びそうな被写体はたくさんある」
「大丈夫! 替えのメモリーカードの準備は万全だから!」
自信満々に許斐が宣言した、その時だった。
「それは頼もしい限りだね。けど、僕としては素敵な紳士と一緒にファインダーに納まりたい」
「ふぁっ!?」
「やあ、倉科許斐クン。我が家のハロウィーン・パーテーは、楽しんでくれてる?」
「ふっ、フレデリックさん!?」
「とても素晴らしいリアクションをありがとう。と、言いたいところだけれど、そんなキミにはもっと驚いてもらおうかな?」
茶目っ気たっぷりに微笑んだフレデリック、もとい吸血鬼のすぐ後ろの扉から数人の人影が現れて、今度こそ許斐は本物の眩暈に襲われた。危うく倒れそうになる許斐の躰をデイヴィッドが慌てて支える。
『おいフレッド、ゲストを卒倒させるとは、どういう了見だ?』
『残念ながらお菓子をもらえなくてね。ほんの悪戯のつもりだったんだ』
頭上から聞こえてくる声を信じられない思いで聞いていれば、ひんやりと冷たいハンカチを額に乗せられて許斐は目蓋をあげた。
「クラシナ様、大丈夫ですか? 頭痛や吐き気といった症状はありませんか?」
「えっ、あ、マイケルさん…?」
「はい」
画像でしか見たことのない顔が、許斐を覗き込んでいる。次の瞬間、許斐は勢いよく起き上がると慌てて頭を下げた。
「あのっ、大丈夫です! ご迷惑を…!」
「迷惑だなどとんでもない。私たちの方こそ、驚かせてしまって申し訳ありません。ご気分は如何ですか?」
「大丈夫です! 全然元気でっ、っていうか、本当にびっくりしただけで…! 俺っ、この船のファンなんです!」
「さようでございますか。クルー一同に代わりまして、心からお礼を申し上げます」
サプライズというには強烈すぎる出来事。マイケルの男らしい微笑みに、再び許斐は卒倒しそうになる。
ふわりと腰に回されたデイヴィッドの腕に、許斐は自然と躰を預けていた。
『マイク、悪いがお前のそれはコノミには逆効果だ』
『怖がらせてしまったか…?』
『恐怖心というよりは、耐性の問題だと思うがな』
呆れたように笑うデイヴィッドの声が何故か耳に心地良い。
「コノミ、少しは落ち着いたか?」
「うん。ごめん、デイヴさん。ありがとう…」
落ち着きを取り戻した許斐の様子に、マイケルが安心したように微笑んだ。
落ち着いてフレデリックの方を見遣れば、カフェで話していた魔王の仮装をして人物の他にも、魔女や狼男の姿がある。
「凄い。本当に凄い…!」
「落ち着いたら、写真を撮らせてもらうといい。もちろん、コノミも一緒にな」
「えっ、でも個人的な撮影は駄目だって…」
「パレード中はな。今は問題ない。そうだろう? フレッド」
「もちろん。時間は限られてしまうけれど、さっき言った通り、僕としては素敵な紳士と一緒にファインダーに納まりたいね」
そのために来たのだと、吸血鬼は優雅に微笑んだ。
「その前に、我が家の家族たちを紹介させてもらっても?」
「もちろんです、キャプテン・フレデリック…!」
デイヴィッドの腕の中で、許斐はキラキラと目を輝かせながらフレデリックの紹介を聞いた。
「――…と、以上が今宵キミをおもてなしする家族たちだよ」
「クリストファーさんて…男性なんですか!?」
露出の多い魔女をまじまじと見つめれば、確かに腕まわりが女性にしてはいかつい気もする。
「信じられない…」
「クリスは顔だけは美人だからねぇ」
朗らかに笑うフレデリックが時間を確認して、許斐は撮影を促された。
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