第1話 勇樹、仕事を辞める。

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第1話 勇樹、仕事を辞める。

 今年は例年に比べて厳しい寒さだった。そんな冬の寒さもすっかり和らぎ、近頃は街の空気が春らしく変化してきた。  俺は中山勇樹。黒髪にメガネの地味な見た目だが、学生時代はスポーツをしていて意外と活発だった。大学卒業後は、デスクワークの仕事をそれなりに頑張ってきた。昔からパソコンを触ることは好きだったためこの仕事を選んだが、働いていくうちにどうしても自分には合わないと思い始めた。  職場の人間関係も、あまり良くない。上司は高圧的で苦手なタイプだし、小さな会社のため同世代もほとんどいない。スピードと正確性が求められるため、仕事が間に合わなければ残業の日々だ。  これぐらいのこと、みんなやってるからお前も頑張れと言われてしまえばそうなのかもしれないが、俺にはこれ以上この職場で頑張れる自信がなかった。仕事のことを考えると眠れなくなり、夜中に何度も目を覚ますし、職場に向かおうとすると吐き気がしてしまうほどになった。  そして、遂にこの3月末で、仕事を辞めることができた。職を失う不安よりも、これでこの職場に来なくてもいいんだという嬉しさや解放感でいっぱいだった。
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