5人が本棚に入れています
本棚に追加
3独り者達の休日1
「でどうすんのよ?」
と茜は、そう訊くとお茶をすする。その傍らで、ひなが、作ったしじみの味噌汁を飲んでいた茂が箸を置く。
「映画に付き合うてくれ」
と言いながら、茂は茜にスマホを見せる。
茜は、茂のスマホに表示された映画館の予約ページを見ると、顔色を変える。
学生時代から漫画好きは変わっていないらしい。
茜曰く神作品と呼ぶ作品に関するコンテンツは、隅から隅までチェックするという徹底したオタクぶりは、相変わらずらしく、
茂の手からスマホを奪いとり、画面を食い入るように見つめる。
「これ、あたしが昔ファンだった漫画じゃん!評判いいからさ、観に行きたかったんだよね!え、なに元カノも漫画のファン?
もしくは俳優さんのファンとか?」
「SNSで自慢して、友人にマウント取りたかったんじゃと。一応と俳優のファンらしいけど」
茜の表情が、笑顔から鬼のような憤怒の形相に切り替わる。
ーーーカラクリ人形みたいじゃの。
茂は、そう呑気に考えながら、茜の熱弁を聞く。
「はあ。何それ?!この神作品に対する冒涜じゃない!主演の俳優さん、この映画のオファーが来た時、漫画全巻セットを大人買いして全巻読んだんですって!それだけじゃないわよ、このヒロイン役なんて、この漫画を自分のバイブルですって言うくらいファンなの!こないだの舞台挨拶に原作者が来ただけで、感動の涙を流したくらいなのよ!それをSNSで自慢したいとかマウント取りたいとかって理由で観に行くとかあり得ないんだけど!」
ここまで息づき無しに一気に話し、茜はお茶を飲んで一息つくと、再び笑顔になる。
「映画観に行けるとか、ラッキー。あっチケット代出すよ」
と脇のトートバッグから財布を出そうとするので、茂はそれを制した。
「いや、ええ」
「えー、それじゃ悪いわよ。じゃ映画館で買うドリンクとか食物代あたし持ちでいい?」
「まあそれなら」
茂と茜は、ごくごく当たり前のようにそんな会話をしながら、
出掛ける計画を立てていく。
その間に茂は、二日酔いによく効くという薬を飲んでいた。
数十分後。
ーーー二日酔いのはずじゃに、なんで映画来とるんじゃろ?
そんな事を考えつつ、茂は、ウーロン茶をすする。ここは、ようきタウン。全国区ではないが、県内では有名な大型スーパーマーケット。某有名ショッピングモールの規模を考えると狭いが、それでも食品から衣料品や本、ちょっとした家電類まで揃うし、店舗によっては、茂が今いるような大手シネコンやゲーセンも入っているから、それこそ一日遊ぼうと思えば遊べる。
ちなみに元カノともここで映画を観たあとは、ちょっとしたドライブを予定していた。
「ごめん。おまたせ。アクスタとポーチ選ぶのに時間がかかっちゃった」
「大丈夫じゃろ。開場まで時間あるけえ。そいやアクスタは、ランダムじゃないんか?」
「んーん。ヒロインが2パターンあってさ。選ぶのに三往復しちゃった」
「両方買えばえかったんじゃ?」
「ん〜今、居候の身だからさ。物増やせないんだよね〜。ポーチは使うからいいけど。そりゃ、結婚前に全部コレクションを処分したからもう一度揃えたいけどね。その前に仕事探さなきゃ」
「そうか。あっ入場開始じゃ」
茂は、そう言って、茜の方へ手を差し伸べた。かなり混んでいるから、逸れないようにと茂の気遣いらしい。
ーーー出た。シゲの無自覚ジェントルマン行動!
茜は、こういう茂のさり気ない気遣いを学生時代から、『無自覚ジェントルマン行動』と勝手に呼んでいる。
祖母、母、妹と女性ばかりの家庭に育ったせいなのか、茂は、息をするように、女性に気遣いがうまい。
この行動と茂の持つ肩書きに釣られる女性は多い。
茜は、そっとため息をつき、茂の手を握った。
このあと、とある少年にこの様子を見られていた事により、ちょっとした騒動になることをこの時の二人は知らない。
最初のコメントを投稿しよう!