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2 独り身の二人。
「はああ"〜〜。畜生。バリ頭痛い」
茜と呑んだ翌日、茂は二日酔いになっていた。 あの後、茜が完全に酔いつぶれるまで呑み、茜をおんぶして彼女の家まで送り届けたのだ。
-----身体バキバキじゃ。学生時代は平気じゃったんに。歳かのう。
まだ二十代なのに年寄りじみた年寄りじみたことを考えながら、茂は、今日が土曜日である事を思いだす。
歯磨きと洗顔を済ませて、台所に向うと、妹のひながセーラー服姿で朝食作りをしていた。
ちなみに、ひなは、茂と十歳離れている。現在十六歳の高校生だ。
「兄さん、おはよう」
「お〜、ひな。おはよう、お前、起きるの早くないか?今日土曜日じゃろ?」
「んもう。今日は、午前は部活!午後は、そのまま真央やミズキと遊ぶって言うたじゃろ!しかもスマホのアプリで共有しとるじゃろ!」
ひなは怒りながら、スマホを見せ、指で示した。
「ホンマじゃ、スマン!気をつけていってきんさい。あっ小遣い足りるか?足らんかったら、兄ちゃんの財布からいくらか持っていけ」
「平気。兄さん。私の事甘やかしすぎじゃけ。あっシジミの味噌汁作ったけぇ飲んでね。私、自分のご飯は食べたけん行くね」
とそっけなくひなは、かばんを持って出ていく。
「はあ。昔は『兄ちゃん!兄ちゃん!』ってくっついて、可愛かったんにから。はあ。今日は、いつメンと遊ぶんか。さみしいのお」
と兄というより父親が発するようなセリフをつぶやきながら、茂は、スマホで自身の予定を確認する。
「そいや。映画に行くつもりじゃった。前売りの電子チケットで予約せんにゃえかった。しかもキャンセル不可」
彼女いやフラレたからもと元彼女が、ヒットした少女漫画の実写で、主演の俳優のファンだし、友達より先に観に行って、SNSにあげて自慢したいとかなんとか言っていたなと茂は、思う。
「どうしょうかいの」
―― アイツラ誘うか?いやいやいやない!野郎だけで、ゴリゴリゴリの恋愛物とかキツい!
別に気にしなければいいのだろうが、以前話題だからというだけで、友人と観に行った時はカップルまみれで、茂的には地獄でしかなかった。
ーーピンポン!
うんうんと、考えこむ茂の思考を邪魔するようにピンポンが、鳴る。
ちなみにこの家は築約四十年の平屋の借家である。水回りなんかは、今どきの物に取り替えられているのに、このピンポンだけは、使えるからと取り換えられてないから、インターホンとは呼べない。
「だれな?まだ朝の八時でよ」
変な奴なら追い返しゃええかと茂は、ドアを開ける。
「ヤホー。シゲ」
「茜、何なん、朝早うから」
「ん〜、シゲに迷惑かけたけら、お詫びしようかなって思ったのさ」
「お詫び?」
―――あの茜がお詫び?俺を遠慮なく振り回す茜が?
茂以外の人間には優しくて面倒見のいい茜だが、なぜか茂限定でワガママ女王に変化する。
学生時代片思いしてきた相手だけに、茂は散々ワガママを聞き、酷い目にあったという思い出しかない茂は、正直警戒してしまう。
「やだな〜。いい大人なんだから学生の頃みたいな事しないっとて!シゲの言う通りにするからさ!」
ねっと両手を合わせるお願いポーズをされては、敵わない。
「とにかく上がれ。俺が飯食うたら、出かけるけぇ着いてきてくれ」
「リョーカイ。お邪魔します」
茜は、そう言って、躊躇う事なく、茂の家に上がる。
茂も茂で、寝起きのパジャマ姿であるという事を得に気にせずに、茜を家に上げた。
こうして、独り者の二人の一日は、始まった。
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