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「具体的にどうするのか言ってみろ」 「だから、過去の実績では三十歳の会社員や、あるいは二十歳の大学生になれたり……」 「じゃなくて、たとえば、五十ウン歳のオレが、その大学生になるのは無理があるだろ? どうやったら、そんな若返ったりするんだ?」 「ええ、ですから、上書き保存ではないんですね。それでは入れ物が中年のおっさんのままで……」 「お前、口の聞き方がなってないな」 「恐れ入ります!」  思わずオレは、ベッドからずり落ちる。 「つまり、なかったことにします。たとえば今の佐山さんのをなかったことにしてしまうと、ハルミさんと出会わなかったケースとなる可能性が存分にあるわけです」 「どうやってなかったことにするんだ?」 「端的に言えば、現実ではなかった、つまり夢だったことにします」  毎晩寝たら見て、目覚めたらたちまち雲散霧消する、夢同然となってしまうのか。  このオレが必死で生き抜いてきた五十余年が、現実には何も残らない幻と化してしまうというのか。  
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