綴る残滓

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綴る残滓

 突然のお手紙、失礼いたします。  あなたはきっとこの手紙を不思議に思っていることでしょう。驚かせてしまい、申し訳ありません。  今日は二月十四日。バレンタインデー。そう、愛の告白の日。包み隠さず、ありのままの気持ちを告げることを赦された日。  なので私も勇気を振り絞り、あなたに想いを告げることにしました。  ですが、私は文章を書くことが得意ではありません。あなたのように文才に溢れていたら……と焦れつつも、私なりに想いを綴ります。  三年前の春。私は窮屈なリクルートスーツに期待と緊張と不安を押し込み、新社会人へのスタートをきりました。  初めてのことばかりで、まるでドラマを見ているかのような高揚感。逸る胸のうちで、一日も早く役に立てる人間になろうと誓いました。  しかし、その誓いはすぐさま崩れました。  同期は皆、仕事への理解が早く、加えて社交的でした。なかには斬新なアイディアで周囲を唸らせる者までいて、自分が劣っていることはすぐにわかりました。  いったい皆、どこでそのような能力を身に着けてきたのでしょう。目の前を真っ黒に塗り潰されたような絶望に襲われ、次第に朝を迎えることが苦痛になりました。  いっそ事故にでも遭ってしまえば会社へ行かなくてすむのに――と、本気で考えました。  そんな私に、あなたはそっと手を差し伸べてくれました。
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