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 その一週間後、仕事に忙殺されて九条院さんのいとこに会ったことすら忘れていたこの日、男は突然店にやって来た。 「いらっしゃいま……」  自動ドアが開く音がしたので反射的にそちらに顔を向けると、滅多にお目にかかれないほど背の高い男が入店してきた。男はカウンターにいる俺を見つけるなり、そのモデルのように長い足で大股に歩き、こちらに近づいてきた。店内中の女性客が男に釘付けになる。 「冬野さん!」 「あ、えっと、九条院さん……の、いとこさん」 「在とは同じ苗字なので、僕のことは形って呼んでください」 「え、はあ……」  まだ会うのは二回目なのに、さすがに名前呼びは失礼すぎやしないだろうか。 「あ、ちなみに今日、九条院さんはお休みですよ」  彼女に会いに来たのだろうが、残念ながら今日は珍しく九条院さんとシフトが被っていない。いとこ同士なら連絡先やシフトくらい把握していそうなものだが、そうでもないのだろうか。   「在に会いに来たわけではありません」  形さんは俺の両手を掴みながら、前のめりになって顔を近づけてきた。 「僕が会いに来たのは冬野さんですよ」 「はあ……へ?」  これっぽちも予想していなかった発言に、間抜けな声が出てしまった。  俺に会いに来た? どうして? あ、もしかしてこの前の居酒屋で勘違いした件を根に持っているのだろうか。だとしたら改めて謝罪したほうがいいよな。仮にも同じ職場の同僚の親戚なわけだし。 「今日、冬野さんがここで働いていると聞いて来たんです」 「……はあ、俺に、ですか」 「はい。ここに来ればあなたとお話しできるから」 「あの……この前の居酒屋の件はすみませんでした……気を悪くさせてしまって……」 「居酒屋の件?」 「その、俺が形さんのことを九条院さんの元カレだと勘違いして……」  親族なんて恋愛関係に発展するはずもない二人を、恋人同士だったと勘違いしてしたうえ、形さんが悪いような言い方をしてしまった。  しかし本気で何を言っているのかわからない、というふうな顔をしていた形さんは、ここまで言ってようやく俺の話を理解したらしかった。 「冬野さんが謝ることなんてないじゃないですか。それに僕、すごく嬉しかったんです」 「は?」  あの一件のどこに喜びを感じるのだろうかと首を傾げると、形さんは俺の耳元に顔を寄せて囁いた。 「だって、こんなにもかっこよくて可愛い人に会えたから」  自分でも顔が熱くなるのがわかった。 「は!? いや、何言って……」 「あのときの冬野さん、とてもかっこよかったです。でも今はこんなにも可愛い」  可愛いって、男に言う言葉じゃねえだろ! 叫びそうになるのを必死で堪える。周囲を見回すと俺と形さんのやりとりを店員と客の全員が見ていた。そしてカウンターの奥で苛立った様子の店長が俺を笑顔で睨んでいた。  
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