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最近の私にはちょっとしたマイブームがある。それは、高校からの帰り道に、公園の格安自販機によることだ。冬場の冷え切った空の下で飲むあつ~いココアは格別で、一度試してみてから、やめられなくなってしまった。普段は私を自販機の虜にした張本人である先輩と来るのだが、今日は予定が合わず、補修終わりの妹を連れて来た。今は少し雪が積もる程度の寒さで、絶好のホットドリンク日和である。きっと妹も自販機の虜になるに違いない。
「何にするか決めた?」
「うん決めた、私コーンポタージュにする!」
私は自販機に500円玉を投入し、いつも通り、あつ~いココアのボタンを押す。妹も私に続いてあつ~いコーンポタージュのボタンを押す「ピッ、ガシャン」、2回その音を聞いてから落とし口を除きこむと…、
「ココアと、コーヒー…?」
私のココア缶の隣には、真っ黒なコーヒー缶が並んでいた。
「ボタン押し間違えてなかったよね。うーん、業者さんが間違えたのかな。公園の管理人さんの所に聞きに行く?」
「ううん、コーヒーでいい。私大人だから飲めるし!」
「この前お母さんに、「まだ私子供だもん!」て言ってなかったっけ。」
予想に反して妹は目を輝かせながらコーヒーを受け取った。妹がコーヒーを飲める、という話は聞いたことが無かったが…まあいいか。
ココア缶を握り直し、かじかんだ手を温める。自販機から出てきたばかりのココア缶は熱すぎるのでしっかりと掴めない。ココア缶が少し冷めるまで、右手、左手と代わる代わるに持ち直す。ちょうど良い温度になったところで飲み口を開け、慎重に口へと運ぶ。
「あぁー、あったまる…。」
冷え切った身体が内側から温まり、疲れた脳に糖分が補給される。今日も変わらず美味しいな、と満足していると。
「ブフッ。」
隣で妹がむせたようだ。「うえー」と口を横に伸ばし、涙目になっている。
「やっぱりあんた、コーヒー飲めなかったんじゃないの。」
「い、いや?すんごく美味しかったけど?」
「本当に?」
「本当本当。苦くて渋くて酸っぱくて…実にTastyでしたよ?まあ私は大人なので、お姉ちゃんにも味見をさせてあげなくもないですが?」
「…じゃあちょっと貰おうかな、私コーヒー飲めるし。代わりにココア飲んでていいよ。」
「いいの?やったー!」
私のココアと妹のコーヒーを交換する。実の所、私もコーヒーは得意ではない。だからといって残すわけにもいかない。ココアで口を治してご機嫌な妹の横で、…覚悟を決めて一気に飲み干す。
「…たしかにテイスティだったわ。」
「本当に飲めるんだ、すごーい。」
「あんたと違って、大人だからね。」
「私だって一口飲めたもん!」
あーだこーだと言い争っていると
「あれ、今日は妹ちゃんと来てたんだ。」
部活動の大会のため、隣町に出かけていたはずの先輩とばったり出くわした。
「もう大会終わったんですか?明日まで忙しいって聞いてましたけど。」
「あーその、予選敗退しちゃってさ。することないから帰ってきちゃった。」
先輩は目を逸らし、頬を掻く。帰宅部の私が知らないこととは言え、自分の言葉で先輩を傷つけてしまった。謝らないと、慰めないと。そう思って口を開くも、うまく言葉が出てこない。
「え!お姉ちゃんの先輩これから暇ってこと!」
気まずい沈黙を最初に破ったのは、空き缶を捨てて戻ってきたばかりの妹だった。
「私今朝ね、綺麗な雪がいっぱい積もってる所見つけててね。これから行って、物凄く大きい雪だるま作ろうと思ってるの。暇なら一緒に雪だるま作ろうよ!」
「物凄く大きいやつ?いいね、面白そう。」
「え、ちょっと。何言って…。」
「あ、お姉ちゃんも行く?」
意気投合した2人を止めようと口を挟んだものの、次はこちらがターゲットになってしまった。
「まあ、行くけど。」
その一言を聞き、妹と先輩は顔を見合わせて喜ぶ。そこまで雪だるまに興味は無いが、初対面の妹と先輩を2人きりにするわけにはいかないだろう。暗くなる前に妹を連れて帰る必要だってあるし…。
「君も雪だるま作るんだ。子供っぽいことしないと思ってた。」
「別に興味は無いんですけど…、」
そこまで言って口を止める。せっかく先輩が元気になったのに、ネガティブな話でまた落ち込まる訳にはいかない。
「そういう日もあります。」
即座に「お姉ちゃんも子供だったんだ!」と妹が食いついてくるが、「別にいいでしょ!それより、早くいかないと暗くなるよ。」と2人の背中を押し、急かす。
この日作った雪だるまは、私達が今までに作ったどの雪だるまよりも大きく、立派な物になった。
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