④ 貴方と永遠を

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④ 貴方と永遠を

「娘を二人も失ってしまうなんて、なんという事だ」  ミハイは深い溜息を付き、ワイングラスを置くと、額を指で押さえて溜息を付いた。アウラは悲しみにくれるミハイの隣で寄り添い、冷たい彼の手に指を添える。  二人の葬儀を終え、嘆き悲しむミハイにアウラは囁く。 「これからは、わたくしがお父様を支えますわ。ですからどうぞ、わたくしの血で喉を潤して頂きたいのですわ、ミハイ。もう二人はいらないでしょう?」 「お前はやはり気付いていたのだね」 「わたくしは貴方をずっと注意深く見ていましたもの」 「嫁ぎ先が見つかれば、お前たちの記憶から私の存在を、消すつもりだったのだがね」 「そして、貴方は新しい(むすめ)を養女に迎えるのですわね。貧しい娘は裕福な家庭に育ち、貴族の家に嫁がせるなんてお互いの利益は一致しますわね。けれどお父様、その方々は闇の貴族ではなくって?」  アウラは、ミハイの腕に絡まりながら蕩けた瞳で彼を見つめた。娘達を慈しみ、何不自由なく愛を注いでくれた養父は、優しくも残酷だ。  彼等の生命線となる血を確保し、新たに血を欲する闇の貴族達へと、手塩にかけた娘達を嫁がせるのだから。 「お前は賢い子だね、アウラ。お前たち人間が家畜を育て食べるように、私達にも人間の血が必要なんだよ。昔と違ってこうして私達は人間と共存しているのだ。理解しておくれ」  ミハイは溜息混じりにそう言いながら、アウラの細い首に指を這わせた。   「私は哀れな少年少女に手を差し伸べ、教育し、望まれる場所に出荷するのだ。しかし、手塩にかけたセラとカエラが、お前の手によって殺されてしまうなんて、予想もしなかった事だよ」  しかし、彼女は少しもミハイに恐怖を感じない様子で、うっとりと見つめる。長い睫毛から覗く血のように紅い瞳は凍りついていて、怒りのままにこのまま首をへし折られてもおかしくはないというのに、アウラは彼に魅せられている。  このままこの手で殺されたって良い、本望だと思うくらい、ミハイを深く愛していた。 「ずっと、わたくしはお父様を独占したかったのですわ。他の娘の血なんて飲んで欲しくなかったんですもの。わたくしがこうして教養を身に付けたのも、ミハイ、貴方の妻になるためですわ。でも貴方がわたくしを殺すというなら、それでもいい」 「ああ、本当に困った子だね、アウラ。お前が一番、貴族(ファミリー)からのご指名が多かったと言うのに。本当に私の妻になりたいのかい?」 「ええ、初めて出逢った時から、そう願っておりましたわ。貴方の世界に、わたくしを連れて行って下さいませ。ミハイと共に生きていけるなら、人間である必要なんてありませんもの」  アウラはそう言うと、ミハイの頬に両手を添えて唇を重ねる。触れるだけの口付けに、彼はソファーの上でされるがままになっていた。アウラの柔らかな金髪を撫でるとミハイは言う。 「共に育った義姉妹を、なんの躊躇もなく殺せるお前は、人間よりも私達に近いのだろうね。私の作り出した幻覚のサーカスでお前に出逢った時、私は怖ろしい悪魔だと名乗った筈だが、お前は全く怯えず、なんの迷いもなく私の手を取った」 「お願いよ、ミハイ。わたくし以外は愛さないで」 「永遠が欲しいのかい、アウラ。私がお前を迎え入れれば、永遠に私と離れる事が出来なくなる。他に年の近い、素晴らしい御子息もいるだろうに。人間として安らかな死を迎える事も出来ないだろう。それでも後悔はないのだね?」 「なんの後悔もないですわ。わたくしにはミハイが居ればそれでいいの」 「ふふ、根負けだな。お前を迎えいれよう」  アウラの答えは揺らぐ事はなかった。青白く冷たい指先が、華奢な首筋を撫で、ミハイが顔を近付けると白い肌に、牙が立てられる。 「あっ……あぁっ……!」   鋭い痛みが走り、次の瞬間に痺れるような快感が全身に走った。吸血される度に陰部がじわりと濡れる。  深い夢の中で、ミハイに牙を立てられ浮き沈みするような快楽に飲み込まれていた日々よりも、もっと甘くて蕩けそうな感覚に、アウラは彼の広い背中に腕を回した。  血を吸われ、やがて意識が朦朧(もうろう)とするアウラの首に、ミハイは手を掛けると、ギリギリと締め上げられた。 「はぁ……やはり、処女の血はまろやかだ。特にお前の血は格別だったから、残念だがね。さぁ、一度目の死を」  呼吸が出来なくなったアウラはそのまま絶命する。ミハイの膝の上で寝かされ、暫くするとアウラは目を見開き息を吹き返した。  今まで感じた事がないほどの激しい喉の乾きに、アウラはミハイに手を伸ばす。彼はアウラの髪を撫でながら、自分の手首を差し出すと、本能的に血管に歯を立て、血を啜り始めた。 「良い子だね、アウラ。落ち着いてゆっくり飲むといい。さぁ、これでようやく私と共にワインを嗜める」 「ミハイ………嬉しいですわ。これが新しい世界。これが貴方が見ていた世界なんですわね」
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