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『みなさんこんにちは。三学期が始まりましたね。お昼のラジオは毎度おなじみ放送部の天音琴葉がお送りします』
ピンポンパンポン、といつもと同じチャイムが鳴り終わると、黒板の上のスピーカーから彼女の声が響いた。
普段喋っているときとは少し声質が違う。「そりゃ変えてるよ。プロだもん」と言っていたのを思い出す。
「まだラジオやってんだな、安住の彼女」
「彼女じゃなくて幼馴染だ。卒業ギリギリまでやりたいんだってさ」
隣の席のクラスメイトがスピーカーを見ながら購買のパンを齧った。
昼休憩の校内ラジオは放送部部長の担当らしく、学年が上がってから毎日天音は放送室で昼を過ごしている。
スピーカーから明るい音楽が流れ始めた。今流行りのアイドルの曲だ。生徒がリクエストした曲らしい。
「天音もすっかり人気パーソナリティだよな。ファンもいるらしいぜ」
「みたいだね。この前もファンレター渡してくれって頼まれたよ」
「マジかよ。マネージャーも大変だな」
「マネージャーじゃなくて幼馴染だ」
彼が笑って、僕も笑った。教室ではクラスメイトたちが至るところでお弁当を広げ談笑している。
この光景も残りわずかなのだと頭ではわかっているが、どうにも過去になる想像はできない。
「お、そろそろだ」
僕は壁にかけられた時計を見て立ち上がった。
『午後からまた寒くなるみたいですね。これから体育の人はがんばってください。それではまた』とラジオは締めの挨拶を始めている。
「今日も行くのか。お前もほんとよくやるねえ」
「マネージャーだからな」
「幼馴染じゃなかったのかよ」
彼のツッコミには答えず、僕は教室を出る。
確かに外はずいぶん寒いらしく、雪がちらつき始めていた。白い雪粒が風に乗って踊っている。
これはあの日の雪なんだろうか、と僕は彼女の言葉を思い出す。
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